第二章 おかえりのある部屋 第五十一話 当たり前になっていく
# 第二章
## おかえりのある部屋
### 第五十一話 当たり前になっていく
それから。
藤堂が玲司の部屋へ来るのは、すっかり日常になっていた。
仕事終わり。
「今から行っていい?」
インターホン。
「ただいま」
「おかえり」
その流れが、自然に生活へ馴染んでいく。
ある夜。
玲司は仕事を終えて、少し遅めに帰宅した。
疲れていた。
電話対応も長引いたし、細かい修正も多かった。
肩が重い。
でも。
マンションのエレベーターへ乗った瞬間、スマホが震える。
【今日は行ってもいいですか】
藤堂から。
玲司は、小さく笑った。
疲れているはずなのに。
その通知を見るだけで、少し呼吸が楽になる。
【今日は遅いよ】
送信。
既読。
【五分だけでも】
玲司は吹き出した。
最近、“五分だけ”が便利な言葉になっている。
【好きにしたら】
送信。
既読。
【好きにします】
即答。
玲司は笑いながら、玄関の鍵を開けた。
静かな部屋。
でも。
もう、“誰かが来る部屋”だった。
ネクタイを緩めながらソファへ座る。
少しして。
インターホンが鳴った。
玲司の心臓が、反射みたいに跳ねる。
ドアを開ける。
藤堂が、少し疲れた顔で笑った。
「……ただいま」
玲司は自然に笑う。
「おかえり」
もう。
そのやり取りに、照れは少なくなっていた。
でも。
慣れたわけじゃない。
言うたび、ちゃんと嬉しい。
藤堂は靴を脱ぐと、そのまま玲司の隣へ座る。
「疲れてます?」
玲司は小さく息を吐いた。
「ちょっと」
その瞬間。
藤堂が、そっと玲司の肩へ頭を預ける。
静かだった。
“慰めよう”とか、“励まそう”とかじゃない。
ただ隣にいる。
その感じが、妙に落ち着く。
玲司は、ゆっくり目を閉じる。
疲れていたはずなのに。
今はもう、少し楽だった。
藤堂が、小さな声で言う。
「……玲司さん」
「ん?」
「お疲れさまです」
その声が。
どうしようもなく優しかった。
玲司は、少し笑う。
それから。
自然に藤堂の髪へ触れていた。
好きだ。
ちゃんと。
こういう何でもない瞬間に、何度でも思う。
静かな部屋。
ソファの近い距離。
好きな人の声。
その全部が、少しずつ“当たり前”になっていった。




