第二章 おかえりのある部屋 第四十九話 ソファの距離
# 第二章
## おかえりのある部屋
### 第四十九話 ソファの距離
「おかえり」
玲司がそう言うと。
藤堂は、少しだけ目を細めた。
安心したみたいに。
嬉しそうに。
その表情を見るたび、玲司の胸は静かに温かくなる。
部屋へ入る。
藤堂は慣れた様子でソファへ座り、大きく息を吐いた。
「……帰ってきた」
玲司は冷蔵庫を開けながら笑う。
「毎回それ言うね」
「だって本当にそう感じるので」
玲司は飲み物を二つ持って戻る。
ソファへ座る。
自然と距離が近い。
もう、少し触れるくらいが普通になっていた。
藤堂が缶を受け取りながら、小さく玲司を見る。
「今日、玲司さんいっぱい笑ってましたね」
玲司は少し目を瞬かせる。
「そう?」
「うん。映画の時も」
玲司は視線を逸らした。
たしかに、今日はずっと楽しかった。
隣で藤堂が笑うたび、自分もつられて笑っていた。
前は。
“好きな人と一緒にいる”って、もっと頑張るものだと思っていた。
でも今は違う。
無理しなくても楽しい。
沈黙でも落ち着く。
隣にいるだけで安心する。
それが、嬉しかった。
藤堂が、ぽつりと言う。
「……玲司さんのそういう顔、好きです」
玲司の心臓が、小さく跳ねる。
「どういう」
「柔らかい顔」
玲司は吹き出した。
「何それ」
「前より、すごい笑うようになった気がします」
その言葉に。
玲司は少しだけ静かになる。
たしかに。
最近、自分でも驚くくらい気持ちが穏やかだった。
仕事は忙しい。
疲れる日もある。
でも。
“帰ったら藤堂がいる”。
それだけで、少し頑張れる。
玲司は、小さく笑った。
「……そっちのせいじゃない?」
藤堂が少し固まる。
それから。
耳まで赤くしながら笑った。
「それ、ずるいです」
玲司もつられて笑う。
静かな部屋。
冷房の音。
ソファの近い距離。
何でもない夜なのに。
どうしようもなく幸せだった。
藤堂が、そっと玲司の肩へ頭を預ける。
玲司は自然に、その髪へ触れた。
もう。
こういう距離が、当たり前になり始めていた。




