第二章 おかえりのある部屋 第四十八話 ただいまの先
# 第二章
## おかえりのある部屋
### 第四十八話 ただいまの先
「……このまま玲司さんの部屋行きたい」
その言葉に。
玲司の心臓が、静かに跳ねる。
駅前の夕方。
人の流れ。
車の音。
少し冷たくなり始めた風。
その中で。
繋いだ手の温度だけが、やけにはっきりしていた。
玲司は、少しだけ笑う。
「最近ほんと帰る気ないよね」
藤堂が困ったみたいに笑う。
「だって落ち着くので」
その返事が、妙に嬉しい。
玲司は小さく息を吐く。
本当は。
自分も、もっと一緒にいたかった。
「……来る?」
そう聞いた瞬間。
藤堂の表情が、少しだけ柔らかくなる。
「行きます」
即答だった。
玲司は思わず吹き出す。
「迷わないんだ」
「玲司さん関連は基本即決です」
また、そういうことを言う。
でも。
今はもう、その言葉をちゃんと嬉しいと思える。
二人で並んで歩く。
夕方から夜へ変わり始める街。
コンビニの灯り。
遠くの電車の音。
繋いだ手。
玲司は、ふと思う。
前は。
仕事終わりに誰かと歩く未来なんて、考えていなかった。
疲れて帰って。
静かな部屋で寝るだけ。
それで十分だと思っていた。
でも今は。
“ただいま”って言いたい相手がいる。
“おかえり”を待ってくれる人がいる。
その変化が、少し怖いくらい幸せだった。
マンションへ着く。
エレベーターの中。
鏡へ映る二人。
自然に並んで立っている。
その光景が、妙にくすぐったい。
藤堂が、小さく笑う。
「なんか、夫婦みたいですね」
玲司は危うく咳き込みそうになった。
「急にやめて」
藤堂が吹き出す。
「でも、ちょっと思いません?」
玲司は視線を逸らした。
……少し思った。
それくらい。
隣にいるのが自然になっていた。
玄関。
ドアを開ける。
静かな部屋。
でも。
もう、“一人の部屋”ではなかった。
藤堂が靴を脱ぎながら、小さく笑う。
「……ただいま」
玲司の胸が、じんわり熱くなる。
何度聞いても。
その言葉は特別だった。
玲司は、少し照れながら笑う。
そして。
自然に返していた。
「おかえり」




