第二章 おかえりのある部屋 第四十七話 帰り道の体温
# 第二章
## おかえりのある部屋
### 第四十七話 帰り道の体温
映画館を出た頃には、空が少しオレンジ色になっていた。
夕方の街。
人の流れ。
信号待ちの列。
飲食店から漂う匂い。
その中を、玲司と藤堂は並んで歩いていた。
繋いだ手は、もう自然だった。
前みたいに緊張しない。
でも。
安心するたび、好きが深くなっていく。
藤堂が、玲司の手を少し揺らす。
「今日も楽しかったです」
玲司は小さく笑う。
「毎回言うね」
「だって本当なので」
その言い方が、あまりにも真っ直ぐで。
玲司は胸の奥がじんわり熱くなる。
信号待ち。
夕方の風が少し涼しい。
藤堂が、ふいに玲司の肩へ軽く寄りかかる。
ほんの少し。
でも。
その体温だけで、胸が静かに満たされる。
玲司は、ぼんやり前を見ながら呟いた。
「……落ち着く」
藤堂が少し目を丸くする。
「今、俺のことですか」
玲司は視線を逸らした。
「それ以外ないでしょ」
その瞬間。
藤堂が、どうしようもなく嬉しそうに笑った。
その顔を見るたび、玲司は思う。
好きになってよかった。
こんなふうに、“一緒にいるだけで安心する人”がいるなんて知らなかった。
青信号になる。
二人はゆっくり歩き出す。
藤堂が、小さく呟く。
「……帰したくないなあ」
玲司は吹き出した。
「また?」
「だって毎回思うので」
玲司は少し笑いながら、繋いだ手を軽く握り返した。
「俺も」
その瞬間。
藤堂の歩く速度が、一瞬止まる。
玲司が顔を見ると、藤堂は少し困ったみたいに笑っていた。
「……最近、玲司さんの“俺も”破壊力高いです」
玲司は吹き出した。
「知らない」
「絶対わかってないですよね」
わかっていない。
でも。
藤堂が嬉しそうにするたび、自分も嬉しかった。
駅前へ着く。
少し人が増える。
でも。
二人は手を離さなかった。
前は、少し周りを気にしていたのに。
今はもう。
“隣にいること”の方が大事だった。
藤堂が、静かな声で言う。
「……このまま玲司さんの部屋行きたい」
玲司の胸が、小さく跳ねる。
夕方の風が吹く。
繋いだ手の温度だけが、妙にはっきり残っていた。




