第二章 おかえりのある部屋 第四十六話 隣で笑う声
# 第二章
## おかえりのある部屋
### 第四十六話 隣で笑う声
映画館の照明が、ゆっくり暗くなる。
スクリーンの光。
静かな館内。
玲司は、隣へ座る藤堂をちらっと見た。
前に来た時とは違う。
今はもう、恋人だった。
繋いだ手を離すタイミングがわからなくて、二人で少し笑った。
「映画始まるよ」
玲司が小さく言う。
藤堂も笑う。
「名残惜しくて」
その言葉が、妙に嬉しい。
結局。
肘掛けの上で、指先だけ軽く触れたまま映画が始まった。
前ほど緊張はしていない。
でも。
隣に藤堂がいることを、ずっと意識してしまう。
スクリーンの光が、時々横顔を照らす。
笑うタイミング。
驚く顔。
飲み物を飲む仕草。
全部、前より近い。
映画の途中。
少し面白いシーンで、藤堂が小さく吹き出した。
その笑い声につられて、玲司も笑う。
前は。
“同じタイミングで笑えた”だけで嬉しかった。
でも今は。
その声を隣で聞けること自体が、嬉しかった。
藤堂が、少しだけ身体を寄せてくる。
肩が触れる。
自然だった。
もう、確認はいらないみたいに。
玲司は目を閉じそうになる。
落ち着く。
恋愛って、もっと疲れるものだと思っていた。
でも。
藤堂といると、“安心”の方が大きい。
映画が終わる。
館内が少し明るくなる。
周りの人たちが立ち上がる。
でも。
二人は少しだけ、そのままだった。
藤堂が、小さく笑う。
「やっぱ好きです」
玲司は吹き出した。
「感想それ?」
「玲司さんのことです」
玲司の心臓が、大きく跳ねる。
周りには人がいる。
でも。
そんなのどうでもよくなるくらい、胸が熱かった。
玲司は視線を逸らしながら、小さく息を吐く。
「……映画館でそういうこと言う?」
藤堂が笑う。
「静かだったので、言いたくなりました」
玲司は、もう勝てない気がした。
好きだ。
本当に。
映画館を出る。
夕方の風が、少し涼しい。
藤堂が自然に手を繋いでくる。
玲司も、その手を握り返す。
前より自然に。
前より深く。
少しずつ。
二人の距離は、“特別”から“当たり前”へ変わり始めていた。




