第二章 おかえりのある部屋 第四十二話 鍵を閉める音
# 第二章
## おかえりのある部屋
### 第四十二話 鍵を閉める音
食べ終わったあと。
二人は、ソファへ並んで座っていた。
食後の静かな時間。
テーブルには空になった容器。
少しぬるくなったお茶。
冷房の音。
藤堂は、ソファへ深く身体を沈めながら小さく息を吐く。
「……落ち着く」
玲司は少し笑った。
「最近そればっか言ってる」
「本当なので」
藤堂が、自然に玲司の肩へ寄りかかってくる。
重み。
体温。
もう慣れてきたはずなのに、まだ少し心臓は跳ねる。
玲司は、ぼんやり天井を見上げた。
少し前まで。
一人で静かな部屋へ帰るだけだった。
でも今は。
誰かが「ただいま」って帰ってきて。
一緒にご飯を食べて。
眠そうに隣へ寄りかかってくる。
そんな時間が、日常になり始めている。
藤堂が、小さな声で呟く。
「……帰りたくないなあ」
玲司は吹き出した。
「毎回言うね」
「だって本当に思ってるので」
その言い方が、少し甘えるみたいで。
玲司の胸がじんわり熱くなる。
藤堂は、玲司の肩へ頭を預けたまま玄関の方を見る。
「この部屋、好きです」
「部屋?」
「うん」
少し間を空けて。
「玲司さんいるので」
玲司は、視線を逸らした。
そういうことを、まだ平然と言う。
でも。
嫌じゃない。
むしろ。
もっと聞きたいと思ってしまう。
その時。
外の廊下から、誰かが帰宅する音が聞こえた。
ドアが開く音。
鍵を閉める音。
静かな夜のマンションによく響く。
藤堂が、その音を聞きながらぽつりと言う。
「……“帰る”っていいですね」
玲司は、小さく目を瞬かせた。
藤堂は少し照れたみたいに笑う。
「前まで、仕事終わっても“帰りたい場所”って感覚あんまりなくて」
その言葉が、胸へ静かに落ちる。
玲司も、少し似ていた。
疲れて帰って。
静かな部屋で寝るだけ。
でも今は違う。
“帰ったら会える人がいる”。
それだけで、一日が少し違って見える。
玲司は、小さく息を吐く。
それから。
藤堂の髪をそっと撫でた。
「……お疲れさま」
藤堂が、少しだけ目を閉じる。
嬉しそうに。
安心したみたいに。
静かな部屋。
鍵を閉める音。
好きな人の体温。
その全部が。
少しずつ、“帰る場所”になっていった。




