第二章 おかえりのある部屋 第三十四話 恋人の習慣
# 第二章
## おかえりのある部屋
### 第三十四話 恋人の習慣
恋人になってから。
玲司の生活には、小さな習慣が増えた。
朝、「おはよう」を送ること。
昼休みに、ちゃんとご飯を食べたか確認すること。
夜、「お疲れさま」を言うこと。
どれも些細なことなのに。
気づけば、それが一日の一部になっていた。
昼休み。
社員食堂の隅。
玲司はスマホを見ながら、小さく笑う。
【今日は暑すぎます】
藤堂から。
添えられていたのは、配達車両の温度計の写真。
三十二度。
玲司は少し眉を寄せた。
【ちゃんと水飲んで】
既読。
【恋人が優しい】
玲司は視線を逸らした。
最近、藤堂はこういうことをさらっと言う。
そのたびに、胸が静かに熱くなる。
【普通】
送信。
既読。
【玲司さんって、絶対自分が思ってるより甘いです】
玲司は思わず吹き出した。
自覚は、少しある。
藤堂相手だと、どうしても甘くなる。
疲れてないか。
ちゃんと食べてるか。
無理してないか。
気づけば、そんなことばかり考えている。
仕事終わり。
玲司は駅前を歩きながら、小さく息を吐いた。
今日は少し疲れた。
電話対応が長引いて、細かい修正も多かった。
肩が重い。
でも。
スマホを見るだけで、少しだけ呼吸が楽になる。
【今終わりました】
藤堂から。
玲司は自然に口元が緩む。
【お疲れさま】
既読。
【玲司さんも】
そのあと。
【会いたい】
玲司は立ち止まった。
駅前の雑踏。
人の声。
信号の音。
車のライト。
でも。
その一言だけが、妙にはっきり胸へ届く。
【俺も】
送信。
既読。
【五分だけでも?】
玲司は、小さく笑った。
最近の二人は、“五分だけ”が好きだった。
コンビニ前。
駅までの道。
マンションの下。
短い時間。
でも。
会えるだけで、一日が少し救われる。
【コンビニ前?】
送信。
既読。
【今向かってます】
玲司はスマホを閉じる。
夜風が少し涼しい。
疲れていたはずなのに。
足取りだけは、少し軽かった。
コンビニの明かりが見えてくる。
その前に。
見慣れた制服姿が立っていた。
藤堂。
玲司を見つけた瞬間、柔らかく笑う。
その顔を見るだけで。
“帰ってきた”みたいな気持ちになる自分がいた。




