第二章 おかえりのある部屋 第三十三話 恋人の朝
# 第二章
## おかえりのある部屋
### 第三十三話 恋人の朝
次の日。
玲司は、スマホの振動で目を覚ました。
まだ少し眠いまま画面を見る。
【起きてますか】
藤堂からだった。
時刻は六時四十分。
玲司は思わず笑う。
早い。
完全に仕事の日の時間だ。
玲司はベッドの中で小さく伸びをしながら返信する。
【今起きた】
既読。
すぐ返信。
【おはようございます】
その一言だけで、胸の奥が少し温かくなる。
今までの朝は、ただ起きて、支度して、仕事へ行くだけだった。
でも今日は違う。
“おはよう”を言いたい相手がいる。
それだけで、世界が少し柔らかい。
玲司はベッドから起き上がる。
カーテンを開ける。
朝の光。
少し曇った空。
スマホがまた震える。
【昨日、ちゃんと寝れました?】
玲司は小さく笑った。
【途中まで電話してたの誰】
既読。
数秒後。
【反省はしてません】
玲司は吹き出した。
洗面台で顔を洗いながら、スマホを見る。
こんなふうに、朝から誰かとやり取りする日が来るなんて思わなかった。
昔の自分なら、
面倒だと思っていたかもしれない。
でも今は違う。
むしろ。
連絡が来るだけで嬉しい。
通勤電車。
窓の外を流れる景色を眺めながら、玲司はスマホを見る。
【今日も忙しい?】
送信。
既読。
【たぶん忙しいです】
そのあと、続けて。
【でも頑張れそう】
玲司の胸が、静かに熱くなる。
理由を聞かなくてもわかった。
【単純】
送信。
藤堂はすぐ返した。
【恋人できたので】
玲司は、危うく電車で吹き出しそうになった。
慌てて口元を押さえる。
周りには通勤中の人たち。
でも。
胸の奥だけ、全然会社モードになれない。
玲司は小さくため息を吐きながら、窓へ額を寄せた。
好きだ。
思った以上に。
静かに始まった恋なのに。
気づけば、生活の真ん中に来ていた。
会社へ着く。
いつもの朝。
コピー機の音。
パソコンの起動音。
同僚の会話。
全部、いつも通り。
なのに。
スマホの中に、“恋人”がいるだけで、少し世界が違って見えた。
その時。
また通知が来る。
【行ってきます】
玲司は少し笑う。
それから。
静かに返信した。
【いってらっしゃい】




