第二章 おかえりのある部屋 第三十話 抱きしめる温度
# 第二章
## おかえりのある部屋
### 第三十話 抱きしめる温度
「……今、抱きしめたら困ります?」
その声は、驚くほど静かだった。
まるで。
断られたら、そのまま引けるように。
でも。
本当は触れたいって、ちゃんと伝わる声だった。
玲司は、一瞬息を止める。
近い。
ソファの上。
肩が触れたままの距離。
藤堂の体温が、すぐ隣にある。
心臓がうるさい。
たぶん今、全部聞こえている。
玲司は視線を落とす。
怖くないわけじゃない。
でも。
嫌じゃなかった。
むしろ。
ずっと、そうしてほしかった。
玲司は小さく笑う。
「……最近、そればっか聞くね」
藤堂が少し困ったように笑った。
「ちゃんと確認したいので」
その言い方が、あまりにも藤堂らしくて。
玲司の胸が、じんわり熱くなる。
ちゃんと大事にしようとしてくれている。
その優しさが、苦しいくらい嬉しかった。
玲司は小さく息を吐く。
それから。
ほんの少しだけ、藤堂の方へ身体を寄せた。
答えの代わりみたいに。
藤堂が、息を止めた気配がする。
数秒。
静かな沈黙。
そのあと。
そっと腕が回された。
優しかった。
強く引き寄せるわけじゃない。
壊れ物を扱うみたいに、静かだった。
でも。
その優しさの方が、ずっと駄目だった。
玲司は目を閉じる。
藤堂の匂いがする。
外の空気。
柔軟剤。
少しだけコーヒー。
全部、もう好きだった。
胸の奥が熱い。
安心する。
どうしてこんなに落ち着くんだろう。
藤堂が、小さく息を吐く。
「……やばい」
玲司は少し笑った。
「なにが」
「思ったより幸せです」
その言葉に。
玲司の胸が、また締め付けられる。
幸せ。
自分も同じだった。
静かな部屋。
ソファ。
抱きしめられたまま、時間だけがゆっくり流れていく。
こんな時間を、自分が欲しがる日が来るなんて思わなかった。
藤堂が、玲司の肩へ顔を埋めるみたいに少しだけ近づく。
その瞬間。
玲司の心臓が、また大きく跳ねた。
「……玲司さん」
低い声。
近い。
耳が熱い。
「ん……?」
藤堂が少し笑う。
それから。
「帰りたくなくなりますね」
その一言が。
どうしようもなく、愛しかった。




