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「再配達、恋もできますか?」  作者: ともり。
第一章 再配達の夜

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第一章 再配達の夜 第三話 名前を覚える

# 第一章


## 再配達の夜


### 第三話 名前を覚える


それから数日。


玲司は、自分でも少し変だと思っていた。


仕事は相変わらず忙しい。

帰れば部屋は静かで、コンビニのご飯を食べて、シャワーを浴びて寝るだけ。


生活自体は、何も変わっていない。


でも。


スマホを見る回数だけが増えた。


昼休み。


社員食堂の隅で、玲司はスマホを開く。


藤堂とのトーク画面。


【今日は暑いですね】


数十分前に来ていたメッセージ。


たったそれだけ。


でも、玲司は少し口元が緩む。


【配達、大変そう】


送信。


既読。


すぐ返信。


【溶けそうです】


玲司は思わず吹き出した。


そのあと続けて、


【玲司さんは?】


と送られてくる。


【事務所が寒い】


【羨ましいです】


そんな、どうでもいい会話。


でも。


その“どうでもよさ”が、妙に心地よかった。


玲司はスマホを閉じて、小さく息を吐く。


誰かと毎日やり取りするなんて、久しぶりだった。


しかも。


無理をしていない。


返信が来ると嬉しい。

でも、返さなきゃと焦る感じもない。


その距離感が、ちょうどよかった。


夜。


仕事を終えてマンションへ戻る。


エレベーターを待ちながら、玲司はなんとなくスマホを開いた。


藤堂から通知。


【今、この辺配達してます】


玲司の心臓が、小さく跳ねる。


“この辺”。


たったそれだけなのに、急に距離が近く感じる。


【お疲れさま】


送信。


既読。


【ありがとうございます】


そのあと。


【ちゃんとご飯食べました?】


玲司は、少し目を瞬かせた。


今まで、そんなことを聞いてくれる相手はいなかった。


【まだ】


送信。


少しして。


【だめです】


短い文章。


でも。


その言い方が、少しだけ優しかった。


玲司はエレベーターへ乗り込みながら、小さく笑う。


不思議だった。


たった数日前まで、名前も知らなかった相手なのに。


今はもう。


通知が来るだけで、少し安心する。


部屋へ戻る。


冷房の効いた空気。

静かな部屋。

いつもの景色。


玲司はコンビニ袋をテーブルへ置き、ソファへ座る。


スマホが震えた。


【配達終わりました】


時刻は二十二時過ぎ。


こんな時間まで働いていたらしい。


玲司は少し眉を寄せる。


【遅いね】


既読。


少しして。


【でも、玲司さんと話せるので頑張れます】


玲司の呼吸が、一瞬止まった。


冗談かもしれない。


何気ない一言かもしれない。


それでも。


胸の奥が、静かに熱くなる。


玲司はしばらく返信できなかった。


部屋は静かだった。


冷蔵庫の低い音だけが響いている。


でも。


その静けさの中で、“みなと”という名前だけが、妙にはっきり残っていた。


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