第一章 再配達の夜 第四話 通知ひとつ
# 第一章
## 再配達の夜
### 第四話 通知ひとつ
朝。
目覚ましが鳴る前に、玲司は目を覚ました。
カーテンの隙間から、薄い朝の光が入っている。
ぼんやりしたままスマホを見る。
通知が一件。
【おはようございます】
玲司は、少しだけ目を瞬かせた。
時刻は六時半。
早い。
仕事前だろうか。
玲司はベッドの中で小さく笑う。
こんなふうに、朝一番に誰かから連絡が来る生活なんて、いつぶりだろう。
【おはよう】
送信。
既読。
すぐ返信。
【起きるの早いですね】
【たまたま】
【俺は仕事です】
その文章のあと、少しして写真が送られてきた。
朝焼け。
配達車両のフロントガラス越しの空。
玲司は、その写真をしばらく見つめていた。
綺麗だった。
でも、それ以上に。
“今、この景色を自分へ送ってくれた”ことが嬉しかった。
【綺麗】
送信。
既読。
【玲司さんにも見せたくて】
胸の奥が、少し熱くなる。
玲司はスマホを胸の上へ置いて、小さく息を吐いた。
危ない。
たぶん、自分は思っているより、この人へ惹かれている。
通勤電車。
人の多い車内で、玲司は窓の外をぼんやり眺めていた。
スマホが震える。
【今日も頑張ってください】
玲司は少し笑う。
【そっちも】
既読。
【はい。お疲れさまです】
まだ朝なのに。
その言葉が、もう少しだけ今日を頑張らせてくれる気がした。
仕事中。
玲司は何度かスマホを見そうになって、やめた。
会議。
電話。
資料作成。
やることは山ほどある。
それなのに。
通知が来ていないか、少し気になってしまう。
昼過ぎ。
休憩室で缶コーヒーを飲んでいると、スマホが震えた。
【さっき、玲司さんのマンション通りました】
玲司の心臓が、小さく跳ねる。
【仕事中に?】
送信。
既読。
【配達ルートなのでセーフです】
玲司は吹き出した。
そのあと。
【でも、ちょっと会えた気がしました】
玲司は、缶コーヒーを持ったまま固まった。
会えてない。
話してもない。
それなのに。
“会えた気がした”。
その感覚が、少しだけわかってしまう自分がいた。
玲司はしばらく返信できなかった。
休憩室にはテレビの音が流れている。
誰かの笑い声も聞こえる。
でも。
胸の奥だけが、妙に静かだった。
やっと指を動かす。
【それは気のせい】
送信。
既読。
少しして。
【じゃあ、また本当に会いに行きます】
その文章を見た瞬間。
玲司は、ゆっくり息を止めた。
会いに行く。
その言葉が、頭の中で何度も響く。
たぶん。
自分はもう、インターホンの音を待ってしまっている。




