第二章 おかえりのある部屋 第二十八話 夜のインターホン
# 第二章
## おかえりのある部屋
### 第二十八話 夜のインターホン
【今から行ったら怒ります?】
そのメッセージを見た瞬間。
玲司は、スマホを握ったまま固まった。
今から。
つまり。
ここへ来る。
この部屋へ。
心臓が、一気にうるさくなる。
玲司は部屋を見回した。
ソファ。
脱ぎっぱなしのシャツ。
テーブルの上の雑誌。
「……無理」
急に生活感が気になり始める。
でも。
嫌じゃなかった。
むしろ。
来てほしい。
玲司は小さく息を吐いてから、返信を打つ。
【怒らない】
送信。
数秒後。
【じゃあ行きます】
その文字だけで、胸が熱くなる。
玲司は慌てて立ち上がった。
テーブルを片付ける。
クッションを直す。
空のペットボトルを捨てる。
別に、誰かを家へ呼ぶのは初めてじゃない。
でも。
こんなに落ち着かないのは初めてだった。
数十分後。
インターホンが鳴る。
その音だけで、心臓が跳ねた。
玲司は一度深呼吸してから、モニターを見る。
藤堂。
制服のまま、少し疲れた顔。
でも。
玲司を見た瞬間、柔らかく笑った。
その笑顔だけで、胸がいっぱいになる。
玄関を開ける。
夜風が少し入り込んできた。
「……こんばんは」
藤堂が少し照れたみたいに笑う。
「こんばんは」
玲司もつられて笑う。
数秒。
どちらも動けない。
“恋人として家へ来る”。
その事実が、まだ少し現実感を持っていなかった。
藤堂が小さく息を吐く。
「なんか緊張しますね」
「わかる」
玲司は少し笑った。
「配達では何回も来てるのに」
藤堂が吹き出す。
「たしかに」
その笑い方が、少し安心したみたいだった。
玲司は身体をずらす。
「入る?」
「……お邪魔します」
藤堂が靴を脱ぐ。
その瞬間。
玲司は、不思議な感覚になった。
この部屋へ。
藤堂がいる。
仕事帰りの制服姿。
少し疲れた顔。
見慣れたはずなのに、今日は全部特別だった。
藤堂は部屋を見回して、小さく笑う。
「玲司さんの部屋って感じします」
「どんな」
「落ち着く」
その言葉が、妙に嬉しい。
玲司は冷蔵庫を開ける。
「飲み物いる?」
「あ、なんでも」
「雑」
藤堂が笑う。
その笑い声が、静かな部屋によく響いた。
飲み物を渡し、二人でソファへ座る。
近い。
映画館より近い。
触れようと思えば、すぐ触れられる距離。
その事実だけで、玲司の心臓は落ち着かなかった。
沈黙。
でも。
嫌じゃない。
むしろ、この静かな時間ごと愛しかった。
藤堂が、ぽつりと呟く。
「……来てよかった」
玲司の胸が、じんわり熱くなる。
その瞬間。
ふと、肩が触れた。
ほんの少し。
でも。
どちらも離れなかった。




