第二章 おかえりのある部屋 第二十六話 おかえり
# 第二章
## おかえりのある部屋
### 第二十六話 おかえり
恋人になった次の日。
玲司は、朝から落ち着かなかった。
カーテンを開ける。
少し曇った空。
いつもの朝。
なのに。
世界が少し違って見える。
スマホが震えた。
玲司の心臓が反射みたいに跳ねる。
【おはようございます、恋人さん】
玲司は、その場で固まった。
朝の静かな部屋。
冷蔵庫の音。
でも。
胸の奥だけ、一気にうるさくなる。
玲司はスマホを見つめたまま、小さく息を吐いた。
無理だ。
破壊力がすごい。
数秒後、また通知。
【照れてます?】
完全に見抜かれている。
玲司は観念して、小さく笑った。
【ちょっと】
既読。
すぐ返信。
【かわいい】
玲司は、ベッドへ顔から倒れ込みたくなった。
恋人になった途端、距離が近い。
でも。
嫌じゃない。
むしろ。
嬉しくて仕方なかった。
通勤電車。
玲司は窓の外をぼんやり眺めながら、スマホを見る。
【今日も仕事頑張れそうです】
藤堂から。
玲司は小さく笑う。
【単純】
既読。
【恋人できたので】
玲司は、危うく吹き出しそうになった。
朝から心臓に悪い。
会社へ着く。
コピー機の音。
電話。
いつもの仕事。
全部、昨日までと同じ。
なのに。
スマホの中に、“恋人”がいるだけで、少し世界が柔らかい。
昼休み。
社員食堂の隅で、玲司はスマホを見る。
【ちゃんとご飯食べました?】
先に来ていたメッセージ。
玲司は少し笑った。
最近、完全に保護者みたいになっている。
【食べてる】
送信。
既読。
【えらい】
玲司は天井を見上げたくなった。
たった二文字なのに、妙に嬉しい。
夜。
仕事を終えて帰宅する。
玄関を開ける。
静かな部屋。
でも。
今日は少しだけ違う。
スマホが震える。
【今終わりました】
藤堂からだった。
玲司はネクタイを緩めながら返信する。
【お疲れさま】
既読。
そのあと。
【……ただいま】
玲司は、動きを止めた。
ただいま。
その言葉が、胸へ静かに沁みる。
誰かが帰ってくる感覚。
誰かの帰る場所になる感覚。
玲司は、ゆっくりソファへ座る。
部屋は相変わらず静かだった。
でも。
不思議と、一人じゃない気がした。
玲司は小さく笑う。
そして。
【おかえり】
そう返した。




