第一章 再配達の夜 第二十五話 恋人になった夜
# 第一章
## 再配達の夜
### 第二十五話 恋人になった夜
「……抱きしめたくなる」
その言葉が、玲司の胸へ静かに落ちる。
玄関灯の下。
夜風が、二人の間をゆっくり通り抜けていく。
近い。
思っていたよりずっと。
玲司は、自分の呼吸が浅くなっているのがわかった。
でも。
逃げたいとは思わなかった。
むしろ。
もっと近づいてほしいと思ってしまう。
藤堂が、小さく笑う。
「すみません。最近ちょっと我慢できてないです」
玲司は視線を逸らしながら、小さく息を吐いた。
「……今さらじゃない」
その瞬間。
藤堂が、少し驚いたみたいに目を見開く。
玲司は、顔が熱くなるのを感じながら続けた。
「俺も、かなり好きだから」
言ったあとで、心臓が大きく跳ねる。
ついに言った。
“好き”。
ちゃんと。
夜は静かだった。
遠くを走る車の音だけが聞こえる。
藤堂は、しばらく何も言わなかった。
ただ。
玲司を見つめている。
その視線が、痛いくらい真っ直ぐだった。
数秒後。
藤堂が、ゆっくり息を吐く。
「……やばい」
玲司は思わず笑ってしまう。
「またそれ」
「だって、嬉しすぎるので」
その声が少し掠れていた。
藤堂は、少しだけ玲司へ近づく。
「玲司さん」
低い声。
近い。
玲司の心臓が、もう全然落ち着かない。
「……ん」
藤堂が、小さく笑った。
それから。
「好きです」
真っ直ぐだった。
誤魔化さない。
逃げない。
その言葉が、玲司の胸へまっすぐ届く。
もう無理だった。
玲司は小さく息を吐いて、少しだけ藤堂へ近づく。
その動きだけで、藤堂の呼吸が止まる気配がした。
玲司は、少し照れながら笑う。
「……抱きしめたいんじゃなかったの」
その瞬間。
藤堂が、困ったみたいに笑った。
「それ反則です」
でも。
次の瞬間には、そっと腕が回される。
優しかった。
強く引き寄せるわけじゃない。
壊れ物を扱うみたいに、静かだった。
でも。
その優しさの方が、ずっと駄目だった。
玲司は目を閉じる。
藤堂の体温。
柔軟剤の匂い。
少し疲れた呼吸。
全部、愛しかった。
静かな夜。
でも。
胸の奥だけが、どうしようもなく満たされていた。
藤堂が、小さく呟く。
「……恋人になれた」
その声が、あまりにも嬉しそうで。
玲司は、抱きしめられたまま小さく笑った。
「うん」
短く返す。
それだけで、十分だった。
もう。
インターホン越しじゃない。
ちゃんと届いた。
この恋は、今、確かに二人のものになった。




