第一章 再配達の夜 第二十四話 恋人になるまで、あと少し
# 第一章
## 再配達の夜
### 第二十四話 恋人になるまで、あと少し
それから数日。
玲司と藤堂の空気は、少し変わった。
毎日連絡を取る。
会えば手を繋ぐ。
声を聞くだけで安心する。
なのに。
まだ、“好き”とはちゃんと言っていない。
不思議な距離だった。
恋人じゃない。
でも。
もう、友達でもなかった。
金曜日の夜。
玲司は仕事を終えて、マンションへ向かっていた。
疲れていた。
電話対応。
修正。
終わらない確認作業。
頭が重い。
でも。
スマホを見るだけで、少しだけ呼吸が楽になる。
【今終わりました】
藤堂から。
玲司は小さく笑う。
【お疲れさま】
既読。
数秒後。
【会いたいです】
真っ直ぐだった。
最近、藤堂はあまり隠さない。
でも。
その言葉を受け取るたび、玲司の胸はちゃんと熱くなる。
【俺も】
送信。
既読。
【今から行ってもいいですか】
玲司は立ち止まる。
夜風が吹く。
マンションのエントランス前。
静かな夜。
心臓だけが、うるさい。
断る理由なんてなかった。
むしろ。
会いたかった。
【うん】
送信。
その瞬間。
胸の奥が、じわっと熱くなる。
待っている。
今、自分はこの人を。
数十分後。
インターホンが鳴った。
玲司は、少しだけ深呼吸してから玄関を開ける。
「……こんばんは」
藤堂が笑う。
その顔を見た瞬間。
疲れが少しだけ消える。
「こんばんは」
玲司も自然に笑っていた。
藤堂は仕事帰りらしく、少し疲れた顔をしていた。
でも。
玲司を見る目だけは、柔らかい。
「疲れてます?」
「ちょっと」
玲司が答えると、藤堂は少し眉を下げる。
「お疲れさまです」
低い声。
近い。
その言葉だけで、胸が苦しくなる。
玲司は視線を逸らしながら、小さく笑った。
「ほんと、それ好き」
藤堂が少し固まる。
それから。
困ったみたいに笑った。
「最近、玲司さんのそういうの危ないです」
「なにが」
「嬉しくなるので」
静かな廊下。
玄関灯の下。
距離が近い。
近すぎる。
玲司は、自分の心臓がかなり危ないことに気づいていた。
たぶん。
あと少し。
あと一歩。
その時。
藤堂が、小さく息を吐く。
「……抱きしめたくなる」
玲司の呼吸が止まった。
夜は静かだった。
でも。
胸の奥だけが、どうしようもなく熱かった。




