第一章 再配達の夜 第二十二話 五分だけ
# 第一章
## 再配達の夜
### 第二十二話 五分だけ
それから。
玲司と藤堂は、少しずつ“会う”ことに慣れていった。
仕事終わり。
コンビニの前。
駅までの道。
マンションの下。
長い時間じゃない。
本当に、五分とか十分とか。
でも。
その短い時間が、驚くくらい大事だった。
「今日、遅かったですね」
夜のコンビニ前。
藤堂は制服姿のまま、小さく息を吐いた。
玲司は缶コーヒーを渡しながら笑う。
「そっちもでしょ」
「今日は再配達地獄でした」
玲司は吹き出した。
「言い方」
藤堂も笑う。
そのあと。
自然に、隣へ並ぶ。
もう。
手を繋ぐことに、そこまで緊張しなくなっていた。
指先が触れる。
それだけで、少し安心する。
玲司は夜空を見上げながら、小さく息を吐いた。
「疲れた」
ぽつりと零れる。
藤堂が、少しだけ近づく。
「お疲れさまです」
低い声。
近い。
玲司は、目を閉じたくなる。
この声だけで、少し救われる。
「……それほんと好き」
気づけば、そう言っていた。
藤堂が少し固まる。
それから。
耳まで赤くしながら笑った。
「急にそういうこと言います?」
玲司も少し笑う。
「思ったから」
沈黙。
でも。
嫌じゃない。
コンビニの明かり。
遠くを走る車。
深夜の空気。
その全部が、今は少しだけ柔らかかった。
藤堂が、小さく呟く。
「……帰りたくないですね」
玲司の胸が、じんわり熱くなる。
最近、その言葉をよく聞く。
でも。
聞くたび嬉しい。
玲司は繋いだ手を少しだけ握り返す。
藤堂が、驚いたみたいに玲司を見る。
玲司は視線を逸らしたまま、小さく笑う。
「五分だけって言ったの、そっちだからね」
藤堂が吹き出す。
「十分に延長していいですか」
「だめ」
「即答」
二人で笑う。
その笑い声が、静かな夜へ溶けていく。
たった五分。
でも。
会えるだけで、一日が少し救われる。
そんな存在になっていることを。
玲司はもう、ちゃんと気づいていた。




