第一章 再配達の夜 第十九話 恋人じゃない距離
# 第一章
## 再配達の夜
### 第十九話 恋人じゃない距離
『次会った時、手、繋いでもいいですか』
その言葉が、玲司の胸へ静かに落ちる。
電話越し。
顔は見えない。
それなのに。
今たぶん、藤堂も少し緊張している。
そんな気がした。
玲司はソファへ座ったまま、目を閉じる。
手を繋ぐ。
恋人みたいだ。
いや。
もう、とっくに普通の距離じゃない。
毎日連絡をして。
会いたいと思って。
声を聞くだけで安心して。
それなのに。
まだ、“好き”とは言っていない。
玲司は小さく息を吐く。
「……確認するんだ」
電話の向こうで、藤堂が少し笑う。
『嫌だったら困るので』
その言い方が、妙に優しかった。
ちゃんとこちらを見ている。
無理に距離を縮めようとしない。
だから、怖いくらい安心してしまう。
玲司は視線を落としながら、小さく笑った。
「嫌じゃない」
数秒。
電話の向こうが静かになる。
それから。
『……やばい』
玲司は思わず吹き出した。
「だから何が」
『今ちょっと、顔見られたくないです』
玲司の胸が、またじんわり熱くなる。
たぶん、自分も似たような顔をしている。
窓の外では、遠くを走る車の音が聞こえる。
深夜の静かな空気。
その中で、二人だけが少し浮かれていた。
『玲司さん』
「ん?」
『次、いつ会えますか』
また、その質問。
でも。
今度は少し響きが違った。
ただ会いたいだけじゃない。
“触れたい”が混ざっている気がした。
玲司は少しだけ目を閉じる。
会いたい。
自分も、ずっと。
「今週末なら」
送信じゃなく、声で返す。
その瞬間。
電話の向こうで、小さく息を呑む気配がした。
『ほんとですか』
「うん」
『……頑張れます』
玲司は笑った。
「単純」
『玲司さん関連だけです』
また、そういうことを言う。
玲司は視線を逸らした。
好きになっていく。
止められないくらい。
その時。
藤堂が、少し静かな声で言った。
『会ったら、たぶん触れたくなります』
玲司の呼吸が止まる。
『だから今、ちゃんと聞きました』
静かな声。
でも。
そこに込められた感情だけは、痛いくらい伝わった。
玲司は、しばらく何も言えなかった。
部屋は静かだった。
冷蔵庫の低い音だけが響いている。
でも。
胸の奥だけが、どうしようもなくうるさかった。




