第一章 再配達の夜 第十八話 触れる理由
# 第一章
## 再配達の夜
### 第十八話 触れる理由
【声、聞きたいです】
その一文を見つめたまま。
玲司は、しばらく動けなかった。
電話。
ただそれだけ。
でも。
文字とは違う。
声を聞いたら、たぶんもっと好きになってしまう。
玲司はソファへ深く身体を沈め、小さく息を吐く。
断る理由なんてない。
むしろ。
自分も聞きたかった。
玲司は、静かに通話ボタンを押した。
呼び出し音。
一回。
二回。
『……もしもし』
低い声。
耳へ直接落ちてくる。
その瞬間。
玲司の心臓が、大きく跳ねた。
「……もしもし」
自分の声が、少し掠れているのがわかる。
電話越しなのに、妙に近い。
数秒。
どちらも何も言わない。
でも。
その沈黙すら、嫌じゃなかった。
先に笑ったのは藤堂だった。
『なんか緊張しますね』
玲司も少し笑う。
「わかる」
『さっきまで普通に話してたのに』
「電話だと違うね」
また少し沈黙。
その静かな間が、妙に心地いい。
藤堂が小さく息を吐く。
『……玲司さんの声、好きです』
玲司は、一瞬呼吸を忘れた。
「……急にそういうこと言う」
『本当なので』
さらっと言う。
でも。
その真っ直ぐさが、どうしようもなく胸へ刺さる。
玲司は視線を落としながら、小さく息を吐いた。
危ない。
好きだ。
かなり。
『玲司さん』
「ん?」
『今日、ほんと帰したくなかったです』
その声は、昼間より少し低かった。
静かな夜だからだろうか。
玲司の胸が、じんわり熱くなる。
「……俺も」
小さく返す。
電話の向こうで、藤堂が少し笑った気配がした。
『やばいですね』
「なにが」
『嬉しすぎます』
玲司は思わず笑ってしまう。
その笑い声に、藤堂もつられて笑う。
部屋は静かだった。
でも。
電話越しに聞こえる小さな呼吸音だけで、不思議と安心する。
『次会った時』
藤堂が、少しだけ声を落とす。
玲司の心臓が跳ねる。
「……なに」
『手、繋いでもいいですか』
玲司は、ゆっくり息を止めた。
窓の外では、夜風がカーテンを揺らしている。
静かな部屋。
でも。
胸の奥だけが、苦しいくらい熱かった。




