第一章 再配達の夜 第十七話 帰れなくなる
# 第一章
## 再配達の夜
### 第十七話 帰れなくなる
改札を抜けたあとも。
玲司の心臓は、しばらく落ち着かなかった。
電車へ乗って、窓へ映る自分を見る。
少し顔が熱い。
手首へ触れられた感覚だけが、まだ残っている気がした。
スマホが震える。
玲司は、ほとんど反射みたいに画面を開く。
【ちゃんと乗れました?】
藤堂だった。
玲司は小さく笑う。
【乗った】
既読。
すぐ返信。
【よかったです】
その短い文章だけで、また胸が熱くなる。
玲司は電車の窓へ額を軽く預けた。
今日一日。
ずっと楽しかった。
会う前より、帰る方が苦しい。
そんな恋愛、久しぶりだった。
いや。
もしかしたら、初めてかもしれない。
マンションへ着く。
夜は静かだった。
エレベーターを待ちながら、玲司はスマホを見る。
【今日はありがとうございました】
送信。
既読。
少し間が空く。
玲司は、その数秒だけで少し落ち着かなくなる。
そして。
【こちらこそ】
【会えてよかったです】
そのあと。
【帰したくなかった】
玲司の呼吸が、止まる。
エレベーターの扉が開く音すら遠かった。
帰したくなかった。
それ、自分も思っていた。
でも。
言えなかった。
玲司は部屋へ戻り、玄関のドアへ背中を預ける。
静かな部屋。
でも。
今日は妙に広く感じた。
さっきまで、隣に藤堂がいたからだろうか。
玲司はゆっくりソファへ座る。
スマホを握る。
何を返せばいいかわからない。
嬉しい。
でも、怖い。
このまま、もっと好きになったらどうなるんだろう。
それでも。
返信しないなんて無理だった。
玲司は小さく息を吐いて、画面を打つ。
【……俺も】
送信。
既読。
数秒。
それから。
【やばい】
玲司は思わず吹き出した。
【なにが】
既読。
【今、めちゃくちゃ嬉しいです】
その文章を見た瞬間。
胸の奥が、じんわり熱くなる。
玲司はソファへ身体を沈め、目を閉じた。
静かな部屋。
冷蔵庫の音。
遠くを走る車。
でも。
もう、一人の部屋じゃない気がした。
スマホが、また震える。
【玲司さん】
名前を呼ばれる。
たったそれだけで、心臓が跳ねる。
【声、聞きたいです】
玲司は、ゆっくり息を止めた。
部屋は静かだった。
でも。
胸の奥だけが、全然静かじゃなかった。




