第一章 再配達の夜 第十六話 改札の向こう
# 第一章
## 再配達の夜
### 第十六話 改札の向こう
「……次、いつ会えますか」
その言葉が、玲司の胸へ静かに落ちる。
改札前。
人が行き交う音。
アナウンス。
遠くの電車のブレーキ音。
周りは騒がしいはずなのに。
玲司には、藤堂の声だけがやけにはっきり聞こえた。
玲司は少し視線を逸らす。
「……そんなすぐ会いたいの」
冗談っぽく言ったつもりだった。
でも。
本当は、自分も同じだった。
藤堂は少し笑う。
「会いたいですよ」
真っ直ぐだった。
変に誤魔化さない。
だから、ずるい。
玲司の胸が、静かに熱くなる。
夜風が、改札前を抜けていく。
玲司は小さく息を吐いた。
「来週なら……」
そこまで言った瞬間。
藤堂の表情が、少し明るくなる。
その反応だけで、玲司まで嬉しくなってしまう。
「ほんとですか」
「うん」
「やった」
小さく笑う。
その笑顔を見ていると、“もっと見たい”と思ってしまう。
危ない。
たぶんもう、かなり好きだった。
電車の到着アナウンスが流れる。
帰らなきゃいけない時間。
でも。
どちらも、少し動けなかった。
藤堂が、ぽつりと呟く。
「なんか、帰るの寂しいですね」
玲司の胸が、じんわり締め付けられる。
その気持ちが、自分だけじゃないことが嬉しかった。
玲司は改札の表示を見ながら、小さく笑う。
「……まだ会ったばっかじゃん」
「でも、もっと一緒にいたいので」
また、そういうことを言う。
玲司は視線を逸らした。
顔が熱い。
でも。
嫌じゃない。
むしろ。
もっと聞いていたかった。
その時。
改札へ向かう人に軽く肩を押され、玲司の身体が少し揺れる。
「あ……」
バランスを崩しかけた瞬間。
藤堂が、反射みたいに玲司の手首を掴んだ。
玲司の呼吸が止まる。
近い。
近すぎる。
掴まれた場所から、体温が伝わってくる。
藤堂も少し固まっていた。
でも。
今度は、すぐに離さなかった。
数秒。
ただ、見つめ合う。
駅の雑音だけが遠く聞こえる。
玲司の心臓は、もう全然落ち着いていなかった。
藤堂が、小さく息を吐く。
「……すみません」
低い声。
近い。
玲司は、うまく呼吸ができないまま小さく首を振った。
「いや……大丈夫」
本当は、大丈夫じゃなかった。
こんなの。
意識しない方が無理だった。
そのあと、藤堂はゆっくり手を離した。
でも。
触れられていた場所だけ、ずっと熱が残っている。
改札の向こう側。
もう少しで、今日が終わる。
それなのに。
玲司は、今すぐまた会いたいと思ってしまっていた。




