第一章 再配達の夜 第十五話 夜風と沈黙
# 第一章
## 再配達の夜
### 第十五話 夜風と沈黙
店を出ると、夜になっていた。
昼間より少し冷えた風が、街をゆっくり通り抜けていく。
二人は並んで歩きながら、しばらく何も話さなかった。
でも。
その沈黙は苦しくない。
むしろ、心地よかった。
隣にいる。
ただ、それだけで満たされてしまう。
玲司は夜空を見上げる。
雲の隙間に、少しだけ月が見えた。
「……今日、ほんと人多かったですね」
藤堂がぽつりと言う。
「休日だしね」
「でも」
藤堂が少し笑った。
「人多いのに、玲司さんだけすぐ見つけられました」
玲司の心臓が、静かに跳ねる。
そういうことを、さらっと言う。
たぶん本人は、全部わかってやってるわけじゃない。
だから余計に困る。
「そっちこそ」
玲司は小さく笑う。
「駅で見つけた瞬間、すぐわかった」
藤堂が少し目を丸くする。
それから、照れたみたいに笑った。
夜風が吹く。
その時。
藤堂の髪が少し乱れた。
玲司は反射みたいに手を伸ばしかけて、止まる。
触れたい。
でも。
まだ、その距離じゃない気がした。
玲司は静かに手を引っ込める。
たったそれだけのことで、胸が苦しくなる。
信号で立ち止まる。
赤信号。
周りには待っている人たち。
でも玲司には、隣の存在だけが妙に近かった。
藤堂が、ふいに口を開く。
「……玲司さんって」
「ん?」
「なんか、安心する」
玲司は息を止めた。
信号機の電子音だけが響く。
「疲れてても、会うとちょっと落ち着くというか」
藤堂は視線を前へ向けたまま、小さく笑った。
「不思議です」
玲司の胸の奥が、じんわり熱くなる。
たぶん。
自分も同じだった。
会うだけで安心する。
声を聞くだけで落ち着く。
今日一日、ずっと楽しかった。
でも。
楽しいほど、少し怖い。
好きになっていくのがわかるから。
青信号になる。
人が動き出す。
二人もゆっくり歩き出した。
駅が近づく。
それだけで、胸の奥が少し寂しくなる。
もう少し一緒にいたい。
でも、帰る時間だった。
改札前。
人の流れが行き交う。
藤堂が立ち止まる。
「今日はありがとうございました」
玲司は少し笑った。
「こちらこそ」
沈黙。
帰りたくない。
その空気だけが、二人の間へ残る。
そして。
藤堂が、小さく息を吐いた。
「……次、いつ会えますか」
玲司の心臓が、大きく跳ねた。
“また会いたい”。
そう言われた気がして。
胸が、どうしようもなく嬉しかった。




