第一章 再配達の夜 第十三話 暗い館内
# 第一章
## 再配達の夜
### 第十三話 暗い館内
映画が始まってからしばらく。
玲司は、内容が半分しか入ってこなかった。
隣にいる。
それだけで、意識が全部そちらへ持っていかれる。
スクリーンの光が、時々藤堂の横顔を照らす。
真剣な目。
少し伏せた睫毛。
飲み物を口にする仕草。
その全部を、玲司は無意識に見てしまっていた。
やばい。
完全に好きだ。
自覚するたび、胸の奥が静かに苦しくなる。
映画の中で、登場人物が小さく笑う。
少し遅れて。
隣から、藤堂の笑う気配が聞こえた。
玲司もつられて少し笑う。
タイミングが同じなのが、妙に嬉しかった。
館内は暗い。
でも。
隣にいる温度だけは、はっきりわかる。
途中。
ポップコーンを取ろうとした手が、少しだけ触れた。
「あ」
小さな声。
ほんの一瞬。
でも。
玲司の心臓は、一気に跳ね上がる。
藤堂も少し固まっていた。
暗くて表情は見えない。
それなのに、空気だけでわかる。
向こうも意識してる。
「……ごめんなさい」
藤堂が小さく囁く。
近い。
耳へ直接落ちてくる声に、玲司はうまく呼吸ができない。
「いや、大丈夫」
声が少し掠れた。
そこからしばらく、映画どころではなかった。
手が触れた。
たったそれだけ。
でも。
その感覚が、ずっと残っている。
映画が終わる頃には、外はもう夕方だった。
館内が明るくなる。
周りの人たちが立ち上がる。
でも玲司は、すぐに動けなかった。
まだ少しだけ、隣の余韻に浸っていたかった。
「どうでした?」
歩きながら、藤堂が聞く。
「……よかった」
玲司が答えると、藤堂が吹き出した。
「またざっくり」
「ちゃんとよかったんだけど」
うまく言葉にできない。
映画の感想も。
今の気持ちも。
外へ出る。
夕方の風が少し涼しい。
人混みの中を並んで歩く。
その時。
後ろから走ってきた子どもが、玲司の肩へぶつかった。
「あっ」
少し身体がよろける。
その瞬間。
藤堂が、とっさに玲司の腕を掴んだ。
ぐっと引き寄せられる。
近い。
近すぎる。
玲司は息を止めた。
腕越しに、体温が伝わる。
藤堂も少し固まっていた。
「……大丈夫ですか」
低い声。
すぐ近く。
玲司は、うまく心臓が動いている気がしなかった。
「……うん」
全然、大丈夫じゃない。
でも、そう言うしかない。
藤堂はゆっくり手を離した。
それでも。
触れられていた場所だけ、熱が残っている。
夕方の街。
人の声。
信号の音。
その全部が遠く感じるくらい、玲司の世界は藤堂でいっぱいだった。




