第一章 再配達の夜 第十二話 映画の前
# 第一章
## 再配達の夜
### 第十二話 映画の前
待ち合わせは、午後一時だった。
なのに玲司は、十一時には家を出ていた。
早すぎる。
自分でもわかっている。
でも、部屋でじっとしている方が落ち着かなかった。
駅前は休日の人で賑わっていた。
買い物袋を提げた人。
笑いながら歩くカップル。
どこか浮ついた街の空気。
玲司は映画館近くのベンチへ座り、スマホを見る。
【今向かってます】
十分前に届いていたメッセージ。
玲司は小さく息を吐いた。
なんだか、本当にデートみたいだった。
その言葉を思い出した瞬間、胸の奥が少し熱くなる。
ふと、ガラスへ映った自分を見る。
黒いシャツ。
少し整えた髪。
こんなに服を悩んだの、いつぶりだろう。
玲司は苦笑した。
「……浮かれすぎ」
でも。
会いたかった。
その時。
「玲司さん」
声。
玲司の心臓が、大きく跳ねる。
振り返る。
藤堂が立っていた。
私服姿。
黒いパーカーに、ゆるめのパンツ。
仕事中より、少し柔らかい雰囲気。
でも。
玲司を見つけた瞬間に笑う顔は、いつもと同じだった。
「待ちました?」
「いや、今来たとこ」
嘘だった。
たぶん顔に出ていたのか、藤堂が少し笑う。
「絶対嘘ですよね」
玲司は視線を逸らした。
「……ちょっと早く着いただけ」
「俺もです」
その返事に、胸の奥が静かに熱くなる。
同じだった。
映画館へ向かいながら、二人はゆっくり歩く。
肩が触れそうで、触れない距離。
でも。
その近さが心地よかった。
「飲み物買います?」
「ん?」
「映画の前。何か飲みません?」
「あー……」
玲司が少し悩んでいると、藤堂が笑った。
「甘いの苦手でしたっけ」
玲司は少し驚く。
「覚えてたの」
「覚えてますよ」
さらっと言う。
そういうところだ。
何気ない会話を、ちゃんと覚えている。
それが嬉しくて、少し苦しい。
結局、玲司はブラックコーヒー。
藤堂は甘いカフェラテを選んだ。
「やっぱ甘いの好きなんだ」
「疲れてると欲しくなるので」
「お疲れさま」
反射みたいに言っていた。
藤堂が少し目を丸くする。
それから。
柔らかく笑った。
「……その言葉、ほんと好きです」
玲司は、一瞬息を止めた。
周りは騒がしいはずなのに。
そこだけ少し静かになった気がした。
映画館の照明が、ゆっくり暗くなる。
二人並んで席に座る。
近い。
肘掛け一つ分の距離。
それだけなのに、玲司の心臓は落ち着かなかった。
スクリーンが光る。
でも玲司は、映画が始まる前のこの時間が、妙に好きだった。
隣に藤堂がいる。
ただ、それだけで満たされてしまう自分がいた。




