第一章 再配達の夜 第十一話 約束の前日
# 第一章
## 再配達の夜
### 第十一話 約束の前日
映画の約束をしてから。
玲司は、少しだけ変だった。
仕事中なのに、ふと明日のことを考えてしまう。
何を着て行こう。
何分前に着けばいい。
映画のあと、どうするんだろう。
そんなことばかり、頭へ浮かぶ。
昼休み。
社員食堂の隅で、玲司はスマホを見つめていた。
藤堂とのトーク画面。
最後のメッセージは、昨夜の【おやすみなさい】で止まっている。
それだけなのに。
何度も開いてしまう。
「佐伯さん、今日なんか機嫌いいですね」
向かいに座った同僚が言った。
玲司は味噌汁を飲みながら視線を逸らす。
「そう?」
「なんか顔柔らかいです」
玲司は少し苦笑した。
自分では隠しているつもりなのに、案外わかりやすいらしい。
午後。
仕事を終える頃には、外はもう暗くなっていた。
駅前は人が多い。
玲司はコンビニへ入り、飲み物コーナーをぼんやり眺める。
その時。
スマホが震えた。
【明日、楽しみです】
玲司の心臓が、大きく跳ねる。
たったそれだけ。
でも。
“楽しみ”という言葉が、こんなに嬉しいなんて思わなかった。
玲司はしばらく画面を見つめて、それから小さく笑う。
【俺も】
送信。
既読。
数秒後。
【なんか、デートみたいですね】
玲司は、ゆっくり息を止めた。
コンビニの音が遠くなる。
レジの音。
店内放送。
全部ぼやける。
デート。
その単語を、向こうから言った。
玲司はスマホを握りしめる。
嬉しい。
でも。
少し怖い。
期待してしまうから。
玲司は飲み物を一本持って、レジへ向かった。
帰り道。
夜風が少し冷たい。
コンビニ袋が揺れる。
玲司は歩きながら、何度もメッセージを見返した。
【なんか、デートみたいですね】
ただの冗談かもしれない。
でも。
少なくとも、自分だけじゃない。
“特別”だと思っているのは。
それが嬉しかった。
部屋へ戻る。
スーツを脱ぎながら、玲司は小さく息を吐く。
落ち着かない。
明日、ちゃんと話せるだろうか。
変な沈黙にならないだろうか。
でも。
会いたい。
その気持ちだけは、驚くくらいはっきりしていた。
夜。
ベッドへ入ってからも、なかなか眠れなかった。
窓の外では、遠くの車の音が聞こえる。
玲司はスマホを胸の上へ置きながら、目を閉じた。
明日。
ちゃんと会える。
インターホン越しじゃなく。
仕事のついででもなく。
“会いたいから会う”。
その事実だけで、胸がいっぱいだった。




