第一章 再配達の夜 第十話 既読の温度
# 第一章
## 再配達の夜
### 第十話 既読の温度
その夜。
玲司は、なかなか眠れなかった。
ベッドへ入っても、頭の中には今日のことばかり浮かぶ。
定食屋。
夜風。
掴まれた腕。
そして。
「今日、楽しかったです」
あの声。
思い出すたび、胸の奥が静かに熱くなる。
スマホを見る。
最後のメッセージ。
【ちゃんと帰れました?】
藤堂からだった。
玲司は小さく息を吐きながら返信する。
【今ベッド】
送信。
既読。
すぐ返信。
【早い】
玲司は少し笑った。
【そっちは】
【コンビニ】
まただ、と思う。
最近、やたらコンビニにいる気がする。
でも。
“今どこにいるか”を知れることが、妙に嬉しかった。
玲司は天井を見上げながら、スマホを打つ。
【ちゃんとご飯食べて】
送信。
数秒後。
【玲司さん、毎回それ言いますね】
玲司は少し固まった。
たしかに。
気づけば、いつも気にしている。
疲れてないか。
ちゃんと食べてるか。
無理してないか。
まるで。
恋人みたいだ。
そこまで考えて、玲司は小さく息を止めた。
返信に迷っていると、先に通知が来た。
【でも、嬉しいです】
胸の奥が、静かに締め付けられる。
嬉しい。
その言葉が、思っていた以上に沁みた。
玲司はスマホを胸の上へ置いて、目を閉じる。
静かな部屋。
冷蔵庫の低い音。
遠くを走る車の音。
でも。
今日は不思議と寂しくなかった。
スマホが、また震える。
玲司は目を開けた。
【玲司さん】
名前。
呼ばれるだけで、心臓が跳ねる。
【次、映画行きません?】
玲司は、ゆっくり息を止めた。
映画。
つまり。
仕事終わりじゃない時間。
ちゃんと“会うため”の約束。
胸の奥が、じわっと熱くなる。
玲司はしばらく画面を見つめていた。
断る理由なんて、一つもない。
むしろ。
会いたかった。
もっと。
【行きたい】
送信。
既読。
少し間が空く。
玲司は無意識に呼吸を止めていた。
そして。
【よかった】
その短い返事が、妙に優しかった。
玲司はベッドの上で、小さく笑う。
窓の外では、夜風がカーテンを揺らしていた。
映画。
並んで座るんだろうか。
何を見るんだろう。
終わったあと、どこか寄るんだろうか。
考え始めると、止まらなかった。
こんなふうに予定ひとつで浮かれてしまう自分が、少し可笑しい。
でも。
たぶん今は、それすら心地よかった。




