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刮目 その7
何も考えないことがこれ程までに人をリラックスさせるとは。今日の旅行が心底憂鬱だった自分が嘘のようだ。この『無の時』を求めて人は温泉に来るのだろうか?
成る程、俺は今まで人生を少し無駄にしてきたのかも知れない。この歳にしてこの感動を知るとは思わなかった。この気持ちを役員、幹部達にどう講釈すれば良いか。いや。彼等は既に知っているはずだ。知らなかったのは俺一人。
だが、これで良い。『無知の知』。己が無知である事を自覚し、その自覚に立って真の知を知れば良い。
喉が渇いたが帰りの運転があるから、冷蔵庫の天然水で喉を潤す。冷たい水が喉を通り過ぎる。途轍もない快感を感じる。もはや官能の世界だ。湯上がりの冷たい水。甘露とはこのことを言うのであったのだ!
ごく当たり前の事にこれ程までの快感がある。そんなことも知らずに過ごして来たのか。まあ、いい。俺は知った。無知である事を知ったのだ。これからだ。
この小さな内風呂でこれ程の経験が出来たのだから、内湯、露天風呂はどれ程俺を感じさせてくれるのか。浴衣の帯をしっかりと結び、期待に打ち震えながら俺は部屋を出た。




