鼓動 その7
隣の部屋から衣擦れの音がする。何も感じない。たかがババアの脱衣行為だ。想像するのもキツい。あの貧相な丘が老化で垂れ下がっているのを… 想像してやはり後悔する。溜め息をつきながら俺も着替える。浴衣なぞ身につけたことがあったか。子供の頃にあったかもしれない。
帯が面倒くさい。適当に巻いて締めて、着替え終了。座卓に座りグラスに残ったビールを飲み干すと、クイーンが隣部屋から姿を現す。
「……」
「んだよ?」
想定、外だった、完全に。今日一番の、いやコイツと出会ってから一番の想定外だった……
確かに胸元は論外だ。辛うじて双丘の膨らみが見られる程度だ。
だが、巻き上げられた髪、それにより露わにされた白く細い首筋、一部の隙もない浴衣の着こなし。帯もピッと決まっていて細いウエストに嫌が応にも目が吸い寄せられる。
自分ではこの旅館が高級すぎて緊張するとボヤいていたが、どうしてどうして、彼女の佇まいは宿の高級さとの相互作用により、観る者の心を激しく揺り動かすのは間違いない。
俺の心も大いに揺さぶられている。一言で言うならば… 色っぽい。艶やかだ。これまで付き合ってきた若い女性には決して垣間見られなかった色気に、俺はかなり動揺している。
「浴衣… 似合うじゃないか…」
かろうじて声に出す。するとクイーンは俺の浴衣姿を眺め、呆れ顔で
「お前、日本人やめろ。なんだその浴衣の着方、ガキかお前。母ちゃんに教わっとけ。てか、今から内風呂入るんだろ、何で今着替えんの? バカかお前」
心は一瞬にして平静を保ち始めた。




