人ノ道 その4
「パパ、じゃああたし達はこれから岡田美術館とか回るから。どうぞごゆっくり〜」
未だかつて見たことのないウキウキした笑顔で小さく手を振る葵。
「お婆ちゃん… 駄目、喧嘩、絶対…」
一方、とても中学生とは思えない心配顔で俺たちを見守る翔。
「じゃあ、打ち合わせ通りな。夕ご飯お前らこの辺で済ませておいてな。小遣いは葵に渡してあるからそれで食うんだぞ。八時にここで待ち合わせ、な」
俺から五千円、母から五千円をゲット済みの葵は満面の笑顔で何度も頷き、
「はーい。ま、何かあったら連絡取り合うってことで」
そんな二人を森の魔女のようないやらしい笑いを見せながら、
「お前らー、電源切るなよーー ヰヒヒ」
やっぱり心配で心配で仕方ない翔が、
「お婆ちゃん… 金光さんと、その、仲良く、ね」
「「それは無理」」
「……」
嬉しさを隠しきれない娘と、不安で心配でオロオロする孫を駅前で降ろし、陰鬱な気分のまま俺は車を発車させる。これからは、そう、この女と二人きりになってしまうのだ…
葵のあんなに楽しそうな顔を俺はこの数年見た事がない。いや、生まれてこの方見たことがない。親の道か。こんなにも奥の深い細道とは芭蕉も知らなかったであろう。
ふと助手席を見ると、この因業ババアは鼾をかいている最中だ。今ならやれる、この手をその細い首に… いかんいかん、100%化けて出て呪い殺される。しかも俺だけでなく葵にまで取り憑きかねない。
それよりも、そんなことをしたら山本くんの仕事に差し支えてしまう。そっちの方が重要案件なのだ。最優先事項なのだ。今日の所は勘弁しておいてやろう。
この人としての判断が、後に人の命を救うことになろうとは、運命の神ですら…




