決定 その4
忘れていた。
俺も死んだ親父も、一ミリもお袋に勝てなかった事を。
怒鳴られた事なんて一度もない、俺も親父も。なのに全てを見透かされて、どんな嘘や言い訳も「フーン」と鼻で笑われて、最後には首を垂れて許しを請う、俺も親父も。
彼女にとって単細胞のクイーンなぞ、手玉に取るのはさぞや簡単なのだろう。
だけど本当に知らなかった、母とクイーンの意外な接点。そう言えば当時、大人達が忌み嫌っていたクイーンの事を母は何一つ悪く言うことが無かった気がする。
それにしてもクイーン。今の今まで母と旧知の間柄だとは一言も言わなかったし。まあ、今見た感じだと、当時も母にボコボコにされたに違いない、精神的に。
俺と親父がかつて結成していた被害者の会に入れてやってもいいかな。
そんなお袋に心をやられたクイーンは、K O寸前のボクサーよろしくヨロヨロと棒立ちしている。そこにすかさず孫が勇者の如くとどめを刺しに行く!
「えっと、おばあちゃん、実は僕と葵ちゃん、箱根に遊びに行きたいんだよね…」
「はあ」
「でも流石に二人っきりって訳には、ねえ?」
「はあ」
「そこでさ。おばあちゃんと金光さん、僕らを箱根に連れて行って欲しいんだけど、駄目かな?」
「はあ?」
彼女のガンはいつものキレが全くなく、母の穏やかな流し目が彼女の威勢を地の底まで落としていく。そして最後に
「はぁーーーーー。いつ?」
我々は勝利の鬨を上げたのだった。




