変化 その2
有楽町にある社員五十名程のこの会社は、大手旅行代理店のような老舗旅館とのタイアップやら海外航空券付き宿泊などには関与せず、まだ流行っていない知る人ぞ知る穴場の旅館やホテル、観光地、特産品なんかを探し出して来ては主にネットで紹介し販売するというスタイルの、まあ俺から見たら学生サークルの延長、のような会社だ。
なので皆、若い若い。社長なんてまだ三十代だ。
そんな中に突如銀行から派遣された五十代の訳ありオヤジに対する一般社員の対応とはー
①無視
②シカト
③ハブる
のいずれかが最適解である。だが、社長、役員連中は未だに俺に対し、直立不動で敬語で対応してくる。俺が在籍していた銀行への気遣い以外ない。
海千山千の元大手都市銀行支店長の俺から見たら、役員会議一つが茶話会程度にしか見えない。このサークルもどきの会社で一生懸命働いてる彼等が、哀れというか呆れてしまうというか、何で俺が学生さんの延長のような彼らと一緒に企画だの営業だの、今更しなくてはならないのか。という悲しい程の上から目線を隠そうともしてこなかった。
一つだけこの会社の長けている部門は営業部だろう。小さい会社ながら、かなり積極的な営業を仕掛け、海外旅行のツアーなんかも仕切っているらしい。ま、俺の担当は企画部なので関係ないのだが。
そんな事よりも、これまでこの会社の仕事に気が乗らなかった一番の理由は、やはり銀行で出世街道から転げ落ちたショックから未だ立ち直れないからだ。
更に言えば、そうなった原因である里子の急死を完全には受け入れられていないのだろう。
生前は大した事もしてやらず、あまつさえ不倫関係を楽しんでいた俺だが、里子の死後の人生の狂いっぷり… 左遷転籍、娘の反抗に始まる家庭不和、収入の激減、等々に打ちのめされ、何の生きがいも気力も無くただ一日一日を過ごしてきた。
だが、こないだの衝撃的な一連の出来事が、俺の冷え切って凍りついていた心を少し溶かした事は否めない。その溶けた溶液が昨日チョロっと化学反応を彼らに引き起こしたみたいだ。




