待宵草 その8
一人カウンターでそんな景色を楽しんでいると、ゆうこがワイングラスを片手に隣に腰を下ろす。
「もう取材だ出演だ、で忙しくて忙しくて。全然ここに来れませんよ〜」
俺は然もありなんと微笑みながら、
「これからはもっと忙しくなると思うよ」
泣き出しそうな、切なそうな瞳で
「ハー。全然せんぱいに逢えないじゃないですか。受賞しなければ良かったな…」
「何言ってんの。これからの日本の俳壇を背負って立つ人が。そうそう、秋の『あおば』での句会、よろしく頼むね。なんか会社で、ものすごく盛り上がっちゃってんだ。それに事前告知したらさ、反響が凄まじいことになってて」
ゆうこは満面の笑みで
「勿論ですよ。それを楽しみに今何とかやっています」
「ははは… ウチの社長なんて俳句の勉強始めたよ」
「ふふふ。せんぱいも勉強してくださいね。私が教えます」
いや俺は… なんか変なことを教えられそうで…
「お手柔らかに… あ、俺のお袋へのサイン入り句集、ありがとな」
「いいえー 何ならあと100冊くらい…」
その句集は素人の俺が読んでも、ああ流石一流俳人、と思える出来であった。のだが。
「いやいやいや。そう、あの句集の一句にさ、ちょっと気になる句があって。確か、
迸る 金の光の 青葉の夜
だったっけ?」
ゆうこは悪戯っ子の目で、
「あら。よく気がつきましたね」




