涼風 その9
予め調べておいた、というより山本くんが調べておいてくれた内浦湾に面した小料理屋に入り、それぞれ地魚の定食を注文する。
旅をすると腹が減る、と言われているらしい。あまり旅行をしてこなかった俺はその言葉を今更実感する。
こんなに空腹になるのは学生の頃以来かも知れない。さっきから腹減った、腹減ったと煩くしているクイーンが全然ウザくない。
俺は地魚の刺身定食にしたのだが、物も言わずがっついてしまう。微妙な味なんてどうでも良い、ただただ刺身と米が喉を通り過ぎていく快感に身を委ね、ご飯を二回お代わりし、ふと気づくとゆうこが呆然と俺を眺めている。
「凄い食欲… せんぱい、こんなにいっぱい食べるんだ…」
「そーいや、ウチじゃこんな食わねえよな… チッ」
何故だかクイーンが悔しげに恨めしげに俺を睨む。俺を恨むな、この朝獲れの地魚と地元産のコシヒカリを憎め。
純子ちゃんも俺と同じく、モノも言わずにひたすらキンメの煮付け定食をかき込んでいる。本人曰く、まともな食事は今月初かも、との事。そんな姿を笑顔で包む美しき母。
食後、ゆうこにそっと
「純子ちゃん、連れて来てよかったね」
「せんぱい、本当に感謝します。愛してます」
何故か爆弾を投げられる。慌ててクイーンを目で追うと、喫煙所でiQOSをふかしている、危ない危ない。真っ昼間でもこのオンナは油断大敵なのだ、と思い知らされる。




