涼風 その3
そう言えば龍二くんの為人を俺は聞いていない。その事を彼女に言うと、頬を緩ませながら、
「龍二… アイツ昔から変わってたわー」
「へえ、どんな風に?」
「人と喋るのが苦手っつうか、嫌いだったんだわ。姉貴の真琴ともあんま喋らねえし。あんま喋んねえからアイツの父親が心配して… 色々検査とかしたのだけど、別に精神異常とかはないって。親の愛が少し足りないのではって言われうなだれちゃって。でも仕方ないわ…」
でた。コイツの元彼回顧中の人格変貌。二番目の彼氏は確かトシヤとか言った。聞いてみると
「そう。産婦人科のお医者さんだったの…」
でた。新たな発見。長女の真琴さんの父は検事だった。それも彼女の傷害事件を担当した… と言うことはトシヤ先生も…
「そうなの。真琴が難産で母子ともに結構危険だったの。それを救ってくれたのが俊哉さん」
「聞いたことねえ… 産婦人科医と患者の恋話…」
この人の恋バナは、人生経験がそこそこ豊富な俺でさえ、唖然としてしまう。一体彼女の何がこうさせたのであろう… よりによって自分の子供を取り上げた医師に惚れてしまうとは…
「私は産後すぐ良くなったのだけど、真琴が未熟児で大変だったの。何度も諦めかけたわ。毎晩泣いていたの。そんな私に大丈夫、僕と一緒に頑張ろう、二人で救ってみせようって笑ってくれたわ。気がついたら、俊哉さんに夢中だったわ…」
なるほど。確かにそんな事言われたら、俺でも惚れちゃうかも知れない。口の上手い医者だったのだろう。
「そして真琴が何とか良くなって退院した後も、わざわざ家まで来て診てくれたり。あの人と話していると凄く元気になれたの。こんな人と一緒にいたいと思っていたな…」
何となく予感がする。霊感と言っても良い。
「察するに、その彼も…」
「ええ、奥さんがいたわ」
思わずハンドルにおでこをぶつけてしまう。




