雲の峰 その7
ようやく狭い道々を切り抜けて店の前に車を着けると、クイーンが店の前で所謂ウンコ座りをして待っていた。五十過ぎたいい大人がみっともないだろう、と言うとオマエの娘といい勝負だろうが、なんて言い返されて激しく凹んでしまう。
それでも、薄手の白のサマーセーターが金色のポニーテールによく似合っている。ナチュラルな化粧もしており、少し照れながら今日は一体どうしたんだよと揶揄うと、
「オマエが… 白が似合うっつうから…」
なんて下を向いて呟くものだから、俺も耳まで充血するのを感じてしまう。
クイーンがiQOSを取り出して、美味そうに吸い始める。白いフィルターに淡い口紅が付着するのを眺め、彼女が口紅を施しているのは今日が二回目だな、微笑んでしまう。
水天宮の脇を過ぎてずっと直進し靖国通りに出てから左折すると、スポーツ店街と古本街が道の両側に広がっている。朝も早いので人も疎だ。
チラリと隣を眺める。いつもと全く違うクイーンが目を細めて外の景色を眺めている。何か話しかけようとするが、声にする前に喉の辺りで詰まってしまい、結局話しかけることができない。正直、こんなに緊張するのは久しぶりだ。まるで十代の少年の頃のようである。
そんな訳で会話のないまま靖国通りを走り続け、ゆうこのマンションまであと十分とカーナビが言ったので、ようやく彼女にゆうこに電話するよう話しかけた。
「そう言えば、オマエ、未だにガラケーなのな」
「お、おお… あんま新しいもん追っかけんの、好きじゃねーんだわ」
年寄りかよ。おばあちゃんかよ。あ、そうか、リアルに祖母だったわ。
「でもラインとか出来ないし。不便だろう?」
「は? 昭和にラインなんて無かったろーが。それでもそんなに不便だったかあの頃?」
テレビなんていらない、ラジオで十分とか、レコードさえあればC Dなんて不要でしょ、と言われてる気がする。
でもこのブレない信念は俺を優しく癒してくれる。目には見えない炭火のような暖かさに心をかざしているうちに、千鳥ヶ淵のゆうこのマンションに到着する。




