178/550
花菖蒲 その1
「クイーン。頼みが、ある」
その夜、『しまだ』のカウンターで俺は緊張している。前回の日帰り温泉の時とは全く別の緊張だ。誰にも頼める相手がおらず仕方なく頼った先月とは、俺の中でクイーンの立ち位置が大きく変わっている。
そう、こいつは只の知り合いでもなく、仲の良い友人でもなく、愛し合っている恋人でもなく、こうして二人で話していると心がポカポカしてくると言うか、それって初号機かよと思われてしまう自分が… 何言ってんだ俺。自分が大混乱だ誰か助けて…
その時、ガラガラと扉が開き、今や常連と化しつつある間宮由子が入ってくる。今夜も白を基調とした清楚な出で立ちで、薄暗い店内が一瞬で明るくなる感じに正直クラクラしてしまう。
「またまた来ちゃいましたー 先輩、とせんぱい」
「おう。ゆうこ、らっしゃい。で、頼みって何だよキング?」
「ゆうこさん、今晩は」
「仕事帰りですか、せんぱい。そのサマージャケット、素敵ですねっ」
「あ、ありがと… ゆうこさんもその白のジャケット、良く似合ってるよ」
「せんぱいに褒められたー 嬉しいー で、頼みって何ですか?」
何故だろう、俺は急に口ごもってしまう。
クイーンに温泉旅行の同伴を頼むことを彼女に聞かれたく無い、と言うか知られたく無い自分が居る。これってまさか、俺、彼女に…




