くろはえ その2
翌日、山本くんに泉さんへのお見舞いの話をすると、腕を掴まれ社長室に拉致される。
有楽町のオフィスビルのワンフロアを占めている我が旅行代理店『鳥の羽』
社名の痛さは一年経った今もう慣れたが、社長室と言ってもパテーションで区切られただけの四畳ほどのスペースには未だに苦笑しか出ない。
ちなみに、この社名は社長が鳥羽という名字であり、そこから取ったと聞いている。ま、ブリヂストンやサントリーみたいなもんだ。
「社長! 金光さんがやってくれましたよっ! ISSAの泉さんとコンタクトが取れました」
平社員がフツーに社長室に駆け込める、何とホワイト企業なのだろう。社名の痛さとブラック企業度数は反比例するのだろうか。いつか経営指南本でも執筆してみようかな。
「本当ですか! さすが支店長!」
「いやですから、支店長は…」
俺より十五も年下の朴訥な社長は、時々俺を前職の役職名で呼ぶ。本人はアゲの意で言ってくれているようだが、俺には苦い思い出しか湧いてこない。
「やだなぁ社長、専務、ですよ」
絶対分かってて言っている若社長は平社員を宥めながら、
「まあまあ山本さん。それで?」
三十代で年商数億の社を取り仕切るだけあり、物事の要所をキッチリと締めてくる。
「はい。やはり当社への直接的なアプローチはNGだそうです。まあ当然ですよね」
「そうですね。で?」
「ですが、私との個人的なアプローチなら協力可能だそうです。まあ、友人にこの温泉はオススメだよ、と言うような感じでしょうか」
社長はゴクリと唾を飲み込んでから、
「それだけでも凄いですよね…」
「ただそれだけなら他社との差別化は難しいでしょう。なので、彼との親交を深め信頼を醸成していき…」
「彼のみぞ知る情報を少しずつ…」
「当分は焦らず、ゆっくりと…」




