五月闇 その1
「光子先輩っ また来ちゃいましたっ!」
とある平日のジメジメした雨の降る夜。間宮先生は今夜は一人で堂々といらっしゃる。その現れっぷりは、とても有名人とは思えぬ清々しさで、きっとこの店に来るまでに多くの市民を唖然とさせてきたに違いない。
白のワンピースをモデルのように着込み、赤のピンヒールをかつかつ言わせながらカウンターに近づき、真っ赤な傘をよいしょと畳む。俺と忍は口をポッカーンと開けながら、先生の来訪にただただ驚いている。正直、彼女のような有名人が来るような店ではないと思うのだが。
だが、クイーンは満面の笑みで彼女を出迎えて、
「おー。皇居のほとりからよく来たじゃん」
「今日は清澄で句会が有ったんですよ。近くだったから来ちゃいました」
滲み出る清楚。甘え方の可愛いさ。縋るような笑顔。十歳以上若く見える容姿。それも決して演じる訳ではなく、天然モノ。確かにオトコは簡単に落ちる。間違いない。
「金光先輩。今日は先輩の話いっぱい聞きたいなー」
白豚(もう面倒くさい)の目が細くなる。豚の嗅覚がアラートを嗅ぎつけたようだ。
「私、卒業式で先輩から頂いた制服のボタン、まだ持ってますよー」
え… な・ん・だ・と…
覚えてないし。全くもって…
クイーンが物凄い目つきでサワーのグラスをドンと彼女の前に置く。
それを全くモノともせず、先生は
「あー、喉乾いた。頂きまーす」
とても、良くない予感がする……




