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はじまり その5
十二時過ぎて、皆帰っていった。
俺は今日のお礼をキチンと言いたかったので、一人カウンターの端でジョッキを舐めている。厨房の火を落とし、洗い物を終えクイーンがハイボールのグラスを片手に隣に座る。
「あーーー、疲れたーーー」
タバコを口に咥えたので、ライターをつまみ上げ火を付けてやる。旨そうに煙を吸い込み紫煙を上に吐き出す。その動作がいちいちキマっている。
「今日はホントに、ありがとな」
何故か彼女は体をビクつかせ、タバコをカウンターの上に落っことす。
「べ、別に大したことっつうか、なあ、まあ… おう」
疲れた上にハイテンションで呑んでいたからだろう、いつもより顔が赤い。
「いや、葵のあんな嬉しそうな笑顔、俺は見た事無いかも知れない」
「そっか」
「あと、お袋のさ、あんな嬉しそうな顔、俺今まで知らなかったかも…」
クイーンは遠い昔を思い出すような遠い目をしながら、
「そか? あんな感じだったぜ昔から」
「そっか、そうなんだ。やっぱ俺、昔から自分しか見てこなかったんだな。家族の事も、友達の事も、妻や娘の事も…」
クイーンは煙を口… 鼻から出しながら、そーじゃねえよ、と呟く。




