はじまり その4
「あんたって子は。ブハハハ」
「いやお袋、それはないって、ホントに…」
健太が割とマジな目付きで、
「軍司ーーー見たのかーーーーー クイーンの…」
余りの迫力にちょっとビビりながら、
「いや健太、見てない、いや、見た。それは見た。だが…」
すかさず忍が助太刀してくれる。
「そりゃー勃ちますわー。姐さんの裸、マジ神だから… おい、なに人の体、想像して嫌そうな顔してんだよコラ!」
この店に来る様になって一番の盛り上がりである。
父親として、息子として、これから一体どんな顔をして暮らしていけば…。
恐る恐る葵を眺める。未だかつて見たことの無い屈託のない笑顔だ。
お袋はと言うと目を細め本当に幸せそうな顔をしている。
仕事一筋、オンナ少々。ほぼ家庭を顧みずに出世、権力、性欲という己の欲望のみを追い求めてきた俺。
仕事に挫折し、妻に先立たれ、男として不能となり生きる目的も気力も失いかけていた俺が、今見ているこの光景は本当に現実なのだろうか。
娘の笑顔。母の慈愛。それにかつて無いほどの安らぎを感じている俺。そして…
「そんでよー、サービスエリア通り越した言い訳が『涙で標識が見えなかった』からだとよ。笑わすんじゃねーよな… あれ? …えーと…」
「え!」
「わっ!」
「ハア?」
「何で…?」
「ふふふ。」
皆が俺の顔を見て、呆れ仰天恐れ慄いている。
みんなの顔がボヤけてくると同時に、一筋の鼻水が俺のジョッキに注がれた。




