帰宅路 その8
門仲に越してきて三年経ち。俺と葵の関係はこの一年間で以前よりは遥にマシな状態となっていると自負していた。それは事実である。
だが。
やはり幼少期からの俺の父親としての接し方が、取り返しのつかない酷いものであったことが今証明されてしまった。葵はずっと我慢して来たのだ、だが今彼女の箍は外れ、失われた少女期の家族愛の薄さを嘆いているのである。
ふと、不思議に思う。翔は母親と離れ祖母と暮らしていると言うのに、葵に感じるような家族愛の欲望を全く感じさせない。実の母親と離れているのに、まるで大きな愛にすっぽりと包まれているが如く振る舞っている様にしか見えない。
何なのだろう? 俺にはサッパリ分からない。
いや、ちょっと待て。
そうではない、離れた母親、死別した?父親から以上の家族愛を翔は受けているのだ、だからこうして自信を持って生活し行動できるのだ。
助手席のクイーンを横目で見る。間違いない、この祖母の孫への愛が全てをオーバーライドしているのだ!
左の腹部に軽い打撃を受ける。クイーンが俺を睨みつけている。俺はその真っ直ぐな瞳を見つめ返す事が出来ず(運転中だし)、前方のトラックのテールランプをぼんやりと見つめる。
わかってる。わかってるよクイーン。もう泣かせないよ。大事な娘を泣かせないよ。俺の全身全霊の愛を葵にぶつけていくよ。お前が翔を包んでいるのに負けないぐらいの、とびきりデカい愛で葵を包み込んでやるさ。そしてこれからは一緒に楽しんで行くよ。一杯笑わせるよ。悲しかった事辛かったこと、それを我慢してきたことを忘れさせるよ。だから… 少し、時間をくれ。
そして、少しでいい、たまにでいいから、これからさ、こんな風に…一緒に…
「葵ちゃん、ほらもうすぐ着くから、なんか食べようよ、ね、って… 金光さーーん、海老名サービスエリアが左後方に去っていきますがーーーー」
仕方ないだろ。入口の案内板が、涙で見えなかったんだから。




