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極楽 その5
気付くと先ほどの初老の男性が少し離れて横におり、クイーンの歌声に目を細めている。
「いや、中々上手な歌ですな、貴方のお連れですか?」
一瞬他人のふりをしてやろうと思ったのだが、不思議と自然に彼に頭を下げ、
「ご迷惑おかけしてます」
「いや、本当に素晴らしい。胸に沁みいるとは、この事なんですかねぇ」
「は、はあ…」
初老の男性はこちらに向き直り、訥々と話し始める。
「いや、本当に素晴らしいですな、この温泉は」
その言い方がちょっと玄人っぽかったので、
「僕は滅多に温泉に来ないのですが、ここはやはり良いのですか?」
と聞いてみる。俺が公共風呂で他人に話しかけるなぞ、生まれて初めての快挙である!
「いやあなた、ほら周りを見回して、人工的というか、いかにも人の手が入っている、と感じますか?」




