極楽 その4
それよりも、露天風呂だ、露天。
浴衣を男らしく脱ぎ捨て、藤籠に放り投げる。大いなる期待感を胸に、露天風呂への扉をゆっくりと開いていく。
ちょっと肌寒い風が少し火照った体に気持ちが良い。新緑の湿った匂いと、軽い硫黄臭に体が喜び始めている。
一歩進むたびに足裏が冷たい。だが歩を進めていくに従い、逆に胸は熱くなっていく。
早く入りたい。すぐ目の前の、緑に囲まれた露天風呂に!
新緑に囲まれた偉大なる露天風呂を目の前に。
あろうことか、隣の露天女湯から歌声が聞こえてくる。
間違いなくクイーンのそれである。誰の歌かは知らないが、この高級な湯には全く不似合いな、場違いな行為だ。何を考えているんだか。さっきまではあれ程縮こまっていた癖に。
当然ながら知らん振りを決めつけて、大自然の下の湯に浸かる。
今の世の中で、外で全裸になることがありますか?
海外のヌーディストビーチなどを除き、日本のこの露天風呂という存在は何なのだろう。
大自然の下、日ごろ自分を覆っている鎧を脱ぎ、生まれたままの姿に戻り自然に還っていくための神聖な場、とでも言うのだろうか。
この圧倒的な開放感は、かつて経験のない程俺をリラックスさせる。空を見上げると相変わらずの曇り空である。何なら一雨来てもおかしくない。だがそんな空気に自分自身が溶け込んでいる不思議な感覚に陥る。
そう、一言で言うなら、自然と一体化している、とでも言うのだろうか。
すると隣の下手クソな歌も森の精霊の歌声に聞こえなくもない。目を瞑って聞いていると、風のざわめきと共に本当に大自然のコーラスに聞こえてしまう。
…って、アレ? 普通に上手いじゃないか…




