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あなたをずっと愛してる  作者: 黒乃白


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別れの菊の花

 薫が中学三年生の時の記憶である。

受験が近づいている真夏の学校。蝉が鳴き始めて、クラスメイト達は体育のプールを終えて着替え終わると髪を濡らしたまま廊下を仲のいい者同士でくっ付いて歩いていた。

毛先から水の滴をポタポタと落としながら薫は廊下を一人、早足で進んでいた。着替えを終えて更衣室を出るとプールに入らずに見学をしていた雛乃がいつの間にかどこかに消えていたのだ。薫は女子の甲高い笑い声やクスクスと聞こえる話し声を流し聞きながら雛乃の姿を探していた。

いない。決して友達が多いわけではない雛乃。お世辞にも仲良しとは言えない女子のグループの背中を見て、ここにもいない。と思った。

諦めて大人しく教室に向かう薫に男子更衣室で着替えを終えた男子たちが女子の集団と混ざって大きな波が出来た。波の中で思春期特有の意識しあった男女のわずかな距離が生まれる。薫も混ざり合った中で近くを通る大人しい男の子たちと少し距離を置いた。

ぶら下げていたプールバッグを男子のプールバッグとぶつかるのが嫌で、前に抱えるように持ち直す。薫が歩いているといつの間にか目の前に雛乃の姿があった。

いた!心の中で叫んで雛乃の側に走ろうとすると、彼女の隣には涼介の姿があった。

ざわつく人ごみの中で薫の足が止まる。いつも、この瞬間を見ると彼女の足が止まる。

二人が話している時の雰囲気は誰も壊せない何かがあって、薫はそこに近づくことすら出来ない。それに涼介と二人で話している時の雛乃はいつも三人でいる時や薫と二人でいる時とは何かが違う。

涼介の横顔を見ると薫はいつものように自分の中にある、密かに感じていた敗北感を味わう。

負けているのだ、何もかも。彼に。

それは今でも同じ。雛乃との関係が変わらなくても、涼介を自分のものにしても、彼女がいなくなっても薫の心の中に常にある敗北感。

薫は今でも自分が何を望んでいるのか分かっていない。心の中を明確にしたところで望みを明確にしなければその先に何も誕生しない。感情の正体だけわかって、結局今までその感情のままに壊すことだけを考えて行動していた。

だってそうしないと苦しかった。でもそうしても苦しかった。その人を失った今でも苦しい。

心の時計はあの頃から永遠に止まったままだ。


 ベッドの中でそんなことを考えて思い出していた、秋の夜。

薫が体勢を整えるために少し体を動かすと背後からお腹に腕を回された。涼介の静かな寝息と共にお腹に当たる彼の手が温かい。彼の手に触れて体温を確認しながら、薫はそっと目を閉じる。夜の暗い闇に呑まれないようにゆっくりと眠りに就いた。

その夜、薫は夢を見た。

どこだか分からない泉のような場所の水面に一つの木製ボートが浮かんでいた。辺りは夜で暗く、月明かりに照らされた下で薫と雛乃が、ゆらゆらと浮かんだまま動かないボートの上に乗っている。水面一面には無数の赤い菊が浮かんでいて、それは水中が見えないほどに埋め尽くされていた。薫はその水面に浮かんだ赤い菊を見て、それに手を伸ばした。一つの赤い菊を掴むと前に座っている雛乃にそれを差し出した。笑顔で渡すと雛乃もそれに応えるように微笑み返した。雛乃がその花を手にした時、花の色が変わった。まるで血のように赤黒かった菊の花は綺麗な黄色に変わっていた。薫はそれを見て思わず目を閉じた。暗闇の中で浮かぶ赤黒い菊の中でただ一つ、雛乃の手元で自らの存在を主張する黄色い菊が眩しくて目を逸らしたくなったのだ。

それでも雛乃の顔が見たくて目を開けた次の瞬間、そこは現実世界で、視界に入ったのは自分の家の白い壁だった。

部屋中に響き渡る時計の針の音と涼介の寝息がまだ静かな夜が残っていることを知らせている。

薫は寝返りを打って涼介の方を向くと、そのまま丸まって彼の胸の中にすっぽりと収まってもう一度、眠りに就いた。それからは熟睡して、夢の続きを見ることはなかった。


 薫が夢を見たその日の夜、一人ベッドに眠る雛乃も夢を見ていた。

月明かりもない真暗闇の中で雛乃ただ一人がそこに立っていて、彼女は何かないか手探りでその中を歩いている。やがて暗闇の中で誰かに腕を掴まれた。短い悲鳴を上げた雛乃の腕には誰だか分からない手がある。雛乃はそれを振りほどこうと必死に抵抗した。掴まれている腕の反対側の手でその手に強く爪を立てると、爪痕で赤くなったその手が雛乃の腕から一瞬、離れた。

「さようなら。」

その先に誰がいるのかも分からないまま冷たく言い放った。そしてそのまま後ろを振り返ることなく、前の見えない暗闇の中を全速力で走り抜ける。

苦しくて苦しくて息を切らして、何も見えない暗闇を走る。何かにぶつかるかもしれない、そんなことも気にせずに、ただずっと走る。走ることしか考えずに走り続ける。すると急に何かが開かれて眩しい光を放った。思わず瞳を閉じて次に瞳を開けた時、彼女は言葉を失った。

どこ?

小さく声に出してポカンとした。


耳の奥で携帯のアラーム音が鳴り響いているのが聞こえた。




ついに完結しました。定期的に読みに来てくれた方々、ありがとうございました。

あ、初めまして、黒乃白って書いて「くろの はく」って読みます。って興味ないですよね。一人ツッコミ……

また次の作品を考えているので年内には新しい話を書くつもりです。今回の話とはまた違う感じのを書きたいと思っています。

いつもそうなんですが、書いたその時は、これでよし!と思うのにしばらくして読み直すとほとんど修正したくなってしまう……。今回もそんな感じなのでもう一話からは読み返さないようにします。色々、修正したくなってしまうので……

書き始めた当初は、一か月で終わらせるぞ!と気合を入れていたのに完結まで三か月以上かかりました…そうこうしている間に大好きなフィギュアスケートのシーズンが始まってしまいました。本当はシニアのグランプリシリーズが始まる前には終わらせるはずだったのに。

私は毎度毎度、大した話を書くわけでもないのに、書くペースが遅いんです…。高校生の時からそうでした。

またいつか、たまたま私の書いた話を読んだらその時はよろしくお願いします。(何を)

一人ツッコミさぶいけど、こんな後書きすら読んでくれた方、ありがとうございました!

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