第二十三話 宴と次なる展望
悩み続けて、書き直しを繰り返して、気付けば三週間。自分は話を締めるのが苦手なんだな、と思い知りました。
遅くなりましたが、第二十三話です。誤字、脱字がございましたら、報告をお願いします。
「えー……《神世界アマデウス》が正式サービスを開始して、約二週間が過ぎました。大体のプレイヤーが第二のダンジョンに挑み始める最中、オレ達は何故か最強のプレイヤーに挑む為に努力していたという訳の分からない事態が発生しておりました。けれど、その努力は無駄にはならず、今のオレ達ならば第三のダンジョンに挑めるのでは無いのかというレベルにまで強くなっており、いずれは〈エンドレス・テンプル〉か〈アビス・オブ・マリス〉の攻略に取り掛かろうと――――」
「いや長い長い! 校長の話かよ!? いいからさっさと乾杯しようぜ!?」
「……と、我慢の出来ない子もいるようなので、話はこのくらいにしておいて……」
バッとムサシが手にしたグラスを天に突き上げる。
「とりあえず乾杯だ、ィヤッハーーーー!!!!」
「「ィヤッハーーーー!!!!」」
「や……やっはー……アハハハ……」
夕暮れ時の〈銀の大木亭〉に賑やかな声とグラスをぶつける音が響き渡る。
かなり豪勢な料理が机の上に広がり、俺達が手にしたグラスの中には赤色の飲み物が注がれている。ムサシがどこぞで入手したらしきパーティークラッカーが盛大に炸裂し、場を多いに盛り上げる。
これは祝いの合図。ハイドラとの死闘を制した俺を労い、皆で喜びを分かち合う為の乾杯。
すなわち――――祝勝会の始まりであった。
「カーッ!! 高けぇ料理と飲み物なだけあって、めちゃウマイなぁコレ! スライムジュースとか目じゃねぇって!」
「アハハ、でしょ~? この店の隠しメニューなんだ! 普通じゃ出してくれないけど、店員に合言葉を伝えたらメニューに加わるんだよ。合言葉を知ってたオレに感謝してよね」
「マジ感謝してるぜ! ところでミケネコちゃんはなんでここにいるの? なんでしれっと祝勝会に参加してんの?」
「気にしない気にしない! せっかくの祝勝会なんだから楽しくやろうよ! 今日はオレが奢るからさ、一緒にパーティーしても良いでしょう?」
「そりゃ構わないけどよ……」
ハイドラと格好良く別れた後。
俺達はいそいそと〈銀の大木亭〉に入り、料理などを注文して(というより、何故か先に待っていたミケネコが注文してくれた)、ムサシから渡されたクラッカーを使ってパーティーを開始したのだ。
と言っても大した事はしない。精々楽しく飲み食いしながら騒ぐだけである。〈銀の大木亭〉には他に客がいないので盛大にはっちゃけてパーティーをしている気分を味わえる。ゲームの中とは言え、やるなら全力で楽しまねばならない。
「そういやアンタ、ハイドラに会って話したみたいだな。知り合いだったのか?」
「べっつに~。初対面だからって話ぐらいは出来るよ。ハイドラには元々機を見て話し掛けようとしていたしね」
「知り合いじゃなかったのか? その割にはハイドラの方はアンタを知っているような口振りだったけど……」
「……そうですね。確か〈子飼い〉のプレイヤーとか言ってましたが……」
「えっ嘘!?」
などと談笑しながら皆でパーティーを進める。ミケネコは何故か俯いてブツブツと「……なんでハイドラがそんな事を知ってんのよ……?」とか呟いているが、とりあえずは放置しておいてマリーやムサシと会話する。
「にしてもナギ! なんだよ、あのオシャレなハイドラとの会話は!? 格好付けすぎだぜ、まったく!!」
「べ、別に良いだろうが……。ゲームの中でくらいは格好付けたってよ」
「うふふ……私は凄く良かったと思いましたよ……? なんか、ライバル同士の約束って感じで、物語の主人公ぽくて……」
「そうだなぁ。なんせ最強のプレイヤーと対等な関係を築き上げる事が出来たんだ。そこは誇って良いと思うぜ? それにハイドラの辻斬りPKを止めさせたんだ。正にてめぇは英雄だよ」
「……そんな大した事はしてねぇよ。俺はただ、奴をぶん殴って自分の我を通しただけだ。その結果が皆にとっての最良だったのは、まぁ嬉しいけどよ」
二人から盛大に褒めらてしまい、何か気恥ずかしくなってしまう。適当に濁しながら、目の前にあった料理を誤魔化すように頬張る。
「……うん。旨い。前にムサシが喰ってた安いメニューはあんまり美味しくなかったっつってけど、これは高級レストランの料理にも引けを取らない一品だな。」
「あ、それはオレのオススメの料理だよ。〈ボアガッシュ〉の肉を使った豚カツ! ミケネコさん的には大満足の星三つの品だね!」
「うーむ、星の基準が分からんから何とも言えねぇ!!」
「なんかボヤッとしたニュアンスで星を付けるのがオレの流儀さ」
「信憑性もボヤッとしてるぞソレ!?」
やはりミケネコはどこか掴みづらいキャラだ。たまにボロを出す時もあるが、基本的には本質を掴ませないようにのらりくらりとした会話を心掛けている気がする。ますますミケネコの正体を知りたくなって来てしまう。
が、まぁ追求は後日にしよう。どうせハイドラ打倒という目的を達成した今、これからの予定はダンジョン攻略ぐらいしか無いのだ。時間ならたっぷりある。今日は祝勝会を楽しむとしよう。
「そういえばよ、ナギ。ハイドラ戦の最後の方で、ハイドラの武器を殴って弾き飛ばしていたよな。よく高速で振るわれる刃に合わせてカウンター出来たもんだ。しかも素手でさ」
「そうそう! ダメージを最低限に抑えながら弾き飛ばすなんて、まるで格闘技の達人みたいな神業だったよ! あれって狙ってやったの!?」
「あぁ……あれか?」
やたらと褒めちぎってくれているが、あれは偶然と奇跡の産物なので、別に俺が凄い訳では無いのだ。一応は昔やった喧嘩の経験を役立てたが、一瞬と一寸の失敗とズレがあったら俺がキルされていたかも知れないので、やはり神業と持て囃されるようなものでは無い。
とは言え、ムサシもミケネコも俺がどうやってあれを成し遂げたのか聞きたいようで、ワクワクした目で俺を見つめて来る。マリーも声高には言わないが気になっているようで、ソワソワと俺の次の発言を待っているようだ。ここは期待に応えてやるべきか。
「昔、高岡って奴と喧嘩した事があったんだが、ソイツが俺よりも身長が高くて腕のリーチも長かったんだ。そのせいで奴の懐に入り込んでぶん殴る事が中々に難しかったんだよ」
「……リーチが長い……。ハルバートを持っていたハイドラさんと似ている感じですね……」
「そうだ。高岡もハイドラもリーチの長さを活かした戦い方をしていたな。そこに共通点があった」
素手だったか武器だったかの違いはあるが、どちらにせよ相手側が近接戦闘で圧倒的な有利を持っていたのは確かだ。俺は相手よりも短く狭い攻撃範囲で戦いを仕掛けなければならない状況下に置かれていたのだ。
「で、そんな高岡をどう倒したのかっつーと。高岡が繰り出したパンチに合わせてカウンターして、高岡の拳を破壊して攻撃を封じたんだ」
「破壊って……。身長がお前よりもデカかったんだろ? ならパワーだってお前よりもあったはずだ。そんな奴のパンチに拳を合わせていたら、逆にお前の拳が先に駄目になっちまうんじゃねぇか?」
「普通ならな。だが、俺は高岡の拳全体を殴り付けたんじゃなくて、高岡の指一本一本に拳をぶつけていたんだよ」
パワーが上の相手でも、指一本だけなら俺の全力で砕く事が出来る。体格がデカいのならば指の大きさもデカく、指だけを的確に狙って殴るのは難しい話では無かった。
「握り拳の親指を狙って殴り、小指を殴り、人差し指を殴り……って、チマチマと一本ずつダメージを与えていってな。そうしたら拳なんて握れなくなって、十分な力を出す事が出来なくなる。パワーダウンして攻撃が捌けるようになってから、なんとか懐に入り込んで倒したわけだ」
「マジでバトル漫画みてぇな倒し方をしたんだな、お前……」
しかしながら、言うほど楽な戦いでは無かった。例えパワーダウンしたとしても高岡の一撃は十分に重くて鋭かった。懐に入り込んで殴り付けても、凄まじいタフネスと執念で中々倒れなかった。むしろ、あの男は追い詰められる程に真価を発揮するタイプだったので、最終的には互いに根性と執念のみで殴り続けたような有り様だった。
「――――で、ハイドラと戦っている時に、そんな高岡の事をふと思い出してな。なら、ハイドラにも通用する可能性が高いと思ったんだよ。パワーが上でも、リーチが長くても、パワーダウンさえさせれば……って」
「……それでハイドラさんに攻撃を当てるよりも、ハイドラさんの武器を狙って攻撃した方が良いと……?」
「武器を取り零してくれたのはラッキーだったな。もし武器を手離さなかったら……」
武器を弾き飛ばして隙を作る為に放ったパンチだった。だから、武器を取り零してくれたのは、目論見通りだったと言えるには言えるのだが……。
「正直、運が良かっただけなんだよ。一か八かの賭けだったんだ。うまくいく保証なんて無い――――いや、失敗する可能性の方が圧倒的に
高かった」
ハイドラの技量を持ってすれば、ハルバートを手離さずに維持し続ける事が出来たかも知れない。そうなれば、俺は為す術無く反撃によってキルされていただろう。
ハイドラがハルバートを失ってしまったのは、奴が武器を振るう瞬間だったから体勢をある程度は崩していた事と、俺が放った一撃の威力がハイドラの予想を上回った事が原因だろう。あの一瞬、あの一秒を狙ってやったからこその成功だった。ほんの一瞬でもタイミングがズレていたら、やはり失敗に終わっていただろう。
「まぐれ勝ちだ。地力の勝利じゃあない。ハイドラは格上の存在だったしから、運に頼って勝負するしか無かった」
ハイドラより俺が強かった、なんて口が裂けても言えない。奴は敗北を喫したが、それでも『《神世界アマデウス》の最強プレイヤー』としての地位を保持し続けているのだ。まぐれで勝っただけでは、俺が最強の二つ名を得る事は叶わないだろう。
「俺はただ、本当に運が良かっただけなんだ……」
「ナギさん……」
誰もが認める最強のプレイヤーを真に越えるには、今の俺ではまだ色々と不足しているのだ。運も実力の内と言われるが、やはりもっともっと強くならなければ、再び来たるハイドラとの戦いを制する事は不可能だろう。
油断はしない。慢心もしない。次に向けて、俺は常に歩み続けなければならない。それこそが、ハイドラに真に勝利する為の方法となり得るのだから。
――――まぁ、それはそれとして。
「でも、俺が勝ったのは事実なので盛大に乾杯だオラァァァァァッ!!」
「オラァァァァッ!!」
「わぁ、なんという浮かれっぷり! 例え運で勝利を拾っただけだとしても、勝利した事には変わり無いのだと言わんばかりの有頂天だぜ!!」
「よっしゃ! じゃんじゃん料理を持って来いや! 後アレ、ドンペリかなんかねぇのか!? もうガンガン飲もう飲もう!!」
「キャバクラやホストクラブじゃ無いんだからさ!! 未成年はドンペリ禁止なんだよ、この店は!!」
「あの……キャバクラやホストクラブでも、未成年にはお酒は出しませんよ……?」
「つーか、ドンペリ置いてあんのかよ……」
せっかくの宴で騒がないなんて勿体無い。ここはミケネコの奢りだと言うので、遠慮無く飲み食いしてやろうないか。
「VRゲームやべぇな! 自宅にいながらこんなパーティーを開けるなんてな! これは引き籠りが増える!」
「アクティブヒッキー量産問題が捗るぜ! オレらも気を付けねぇと出不精になっちまうなぁ!」
「デ、デブ……。そ、そうですね……VRゲームにのめり込み過ぎて……運動不足になってしまうのは駄目ですね……。カロリーを気にしなくて良いのが幸いですけど……」
「アハハハッ!! 年頃の女の子は大変だねぇ。オレも太るのは勘弁だけど、それでも体重を一々気にしながら飲み食いするのは嫌だなぁ。美味しい食べ物はむつかしい事を考えずに食べるのが一番良いよ!」
「言うじゃねぇか、ミケネコちゃん! 女の子らしさが欠片も無いその有り様、色気より食い気ってか!」
「アハハハ~~…………怒るよ?」
例えアルコールを摂取していなくとも、そこは思春期真っ只中の少年少女の集まり。四人もいれば話題は尽きずに騒ぎまくり、時間も忘れて――――というか、なんで宴を開いているかも忘れて加速していく。
現実世界ならば店一軒を貸し切りにして騒ぐなんて、少なくともまだ高校生の俺達では出来ない事だ。しかし、今は俺達以外の客はおらず、ゲームのシステム的にも店内で騒いでもペナルティーが無いので、こうして楽しい時間を過ごす事が出来るのだ(もちろん、やり過ぎは良く無いが)。
ムサシやミケネコが談話を始め、それに俺やマリーがたまに合いの手を入れる。
皆で盛り上がりながら、祝勝会はドンドンと騒がしく進んでいく。
――――やがて。
ミケネコがムサシに何やら話し掛け、二人で《神世界アマデウス》の情報について話し合いを始めた頃。
しばらくは二人だけで会話に集中していたそうだったので、俺は黙々とその様子を見詰めながら料理を口にしていた。
と、そんな時にマリーがポツリと声を漏らした。
「……なんか、不思議な感覚です……。私、こうして友人と一緒にパーティーを開くなんて、久しぶりで……」
「そうなのか? なら、今日は存分に楽しんじまえ。一応は俺が主役のパーティーらしいけど、そんなの最早関係無くなって来てるしな。たまには羽目をはずして、アンタもちょっとはテンション上げようぜ」
「……いえ、その……私はこうして会話に混ざれているだけでも十分です……。というより、余りテンションを上げるのは得意では無いので……」
「大丈夫だって! 適当にウェーイとかキェーイとか言っとけば、とりあえずは場を盛り上げる事が出来るからよ。後は場の流れに身を任せれば、気付いたらハイテンションになってるもんさ」
「そうですか……? でも、やっぱり恥ずかしいですし……参考にはさせて頂きますけど……」
「今はそれで良いや。いずれは俺達とバカ騒ぎが出来るようになろうぜ。アンタも一緒のノリで楽しんでくれたのなら、俺も嬉しいからよ」
こういった宴は全員で騒いだ方が楽しいに決まっている。だから、マリーも遠慮無くバカみたいに騒いで欲しいのだが、マリーは恥ずかしがっているようだった。
まぁ、マリーの性格的にはっちゃけるのに抵抗が生まれてしまうだろう。強制してしまうのも悪いので、今はそっとしておくとしよう。いつかマリーが俺達に本当に心を許してくれたのなら、その時は一緒に楽しみたいものだ。
(――――そうだ。俺達が出会って、一緒に戦って、一緒に遊んで…………そうしたのは、まだ二週間程度の付き合いでしか無いんだよな)
濃厚な二週間だった為に気にしなかったが、まだまだマリーとの付き合いは短いものである。高校に進学してからの仲であるムサシと比べたら、彼女と過ごした時間は微々たるものだ。
俺はマリーの事は余り詳しく知らないし、マリーも俺達の事は詳しくは知らないだろう。彼女の事は大切な仲間だと認識しているし、共にこれからも歩んでいきたいとは思っているが――――現状、所詮はその程度の仲でしか無いのも事実だ。
「…………なぁ、マリー」
「? はい、なんでしょう……?」
ハイドラとの再戦も大事だし、《神世界アマデウス》の攻略もしなければならない。
けれど、俺は――――せっかく出会い、仲良くなった、このマリーというプレイヤーと一緒に遊んでいきたい。もっと彼女の事を知りたい。彼女との心の距離を縮めたいのだ。
様々なプレイヤーが存在する《神世界アマデウス》というVRの中で、初対面ながらも打ち解ける事が出来た彼女と、これからも一緒に冒険していきたいのだ。
「――――これからもよろしくな」
ゲームの中であったとしても、仮想世界の中であったとしても、人々の心は真実のままだ。
だからこそ、俺は仲間との絆を深めていきたい。だからこそ、様々なプレイヤーと出会っていきたい。
「…………はい。これからも一緒に冒険していきましょうね」
《神世界アマデウス》はまだ始まったばかり。
これから進むべき旅路、これから訪れる出会い――――まだまだ無数に散らばる『楽しみ』に心を踊らせ、想いを馳せながら、俺達は宴を続けていくのであった――――。
これにて第一章・完結! とは言え、もしかしたら細かい部分を書き直したりするかもですが。
次からは第二章の始まりとなります。話数カウントはそのまま、二十四話からとなります。




