第二十二話 再戦の約束
体育祭、文化祭、お祭りだらけで忙しい……。それらに遊びにいけなくて私は悲しい……。
が、何とか隙を見つけて書き上げた二十二話目です。誤字、脱字がございましたら、報告をお願いします。
竜騎士ハイドラとの戦いは俺の勝利によって幕を閉じた。
ハイドラの度肝を抜く戦略、ド根性、幸運――――ありとあらゆる要因を総動員し、かき集め、諦めずに立ち向かう事で手にした勝利だ。どれか一つでも欠けていたら、この戦いは真っ当にハイドラが勝利を納めて終了していただろう。
「……ナギさん!」「ナギ!」
そして、遠方より走り寄って来るマリーとムサシ。
彼らの協力と声援が無ければ、俺は戦闘の途中で果てていただろう。彼らが装備の作成やレベル上げに協力してくれたからハイドラとも渡り合う事が出来たし、彼らの声援があったから俺は最後まで諦めずに戦う事が出来たのだ。
特にマリーの切なる叫び。
俺の名を呼んで、勝利を祈ってくれたからこそ、俺は最後の一手を打つ事が出来たのだ。
「てめぇ、マジでやりやがったな! 本当にハイドラに勝っちまうとは、めちゃすげぇぜ!!」
「……ナギさん……!!」
「あぁ……。そうだな……」
駆け寄って来た二人に対して、俺は息も絶え絶えに応える。基本肉体的な疲労とは無縁な《神世界アマデウス》であるが、流石に精神的に疲れた。ハイドラとの戦いは一瞬たりとも気の抜けないものだったので、一気に精神をすり減らしてしまったのだ。
それでも俺はなんとか気を持ち直して、二人にきちんと応える事にした。それが俺に出来る二人への感謝の表し方だからだ。
「マリー。アンタの最後の声援が、俺の背中を押してくれた。あれが無かったら、最後の一撃はハイドラが持っていってしまっただろう。マリーの声があったからこそ、俺はハイドラをぶっ飛ばす事が出来たんだ」
俺は改めてマリーに向き直って頭を下げた。
「ありがとうな、マリー」
「……わ、私は見てただけで……最後には声を荒げてしまって……。そんな頭を下げられるような、感謝されるような事は何もしてませんよ……?」
「何言ってんだよ、マリーちゃん! あんだけでかい声援をしておいて、何もしてないなんて冗談だろ!? それならオレは半端な解説しかしてねぇよ……マジで役に立ってないぜ……?」
「ホントにな」
「そこはフォローしてくれませんかねぇ!?」
そうは言うものの、ムサシの協力が無ければレベル上げも素材集めもままならなかっただろう。ムサシが役に立ってないなんて事は無く、マリーと同じぐらい俺の支えになってくれたのだ。
「勿論、ムサシにも感謝してるぜ。マリー程じゃねぇけど」
ただ面と向かって言うのは恥ずかしいので、こうしてふざけて誤魔化しはするが。
「ヒデェなぁ。まぁ、女の子の声援には勝てねぇわ。あの時のマリーちゃんはめちゃヒロインしてたしなぁ。それに比べたらオレなんてモブムサシその一だもんな」
「か、からかわないで下さい……! ……それと”モブムサシ“ってなんですか……?」
からからと笑うムサシ。顔を赤くして膨れっ面になるマリー。先程までの死闘が嘘のように、和やかな空間が形成されている。彼らとの楽しい会話と冗談も含めた掛け合いは、疲弊してすり減った精神を癒してくれる。
俺が格上たるハイドラに勝てたのは仲間が居たからだ。戦闘には直接関わらずとも、俺を支えてくれた仲間が居てくれたから、最後の最後まで俺は戦い抜けたのだ。
少年漫画では「仲間との絆が俺の力だ!」なんて台詞が良く出てくるが、今の俺の状況は正しくその通りなのだろう。ハイドラには無かった仲間との絆が、俺に勝利を与えてくれたのだ。
「……というか、ナギさん! 早くHPを回復して下さい……!」
「え? あぁ、そういや……」
マリーに言われて、まだ自分のHPを回復して無かったのを思い出した。残り数値を確認してみると、なんとたったの一桁分しか残ってなかった。こんなHPでは雑魚モンスターの攻撃どころか、下手したらこけただけでデスしてしまう可能性がある。
俺はアイテム欄からポーションを選んで取り出し、手早く一気飲みした。完全回復とまではいかないが、とりあえずは安心出来るぐらいのHPは確保出来た。
「もう……見ててヒヤヒヤしましたよ……。吹けば飛ぶようなHPのままで、どうして平然としていられるんですか……?」
「いやぁ、ハイドラに勝てた高揚感と達成感で胸が満たされちまってなぁ……。うっかり忘れてたぜ」
「そのまま帰り道でモンスターにキルされたら面白かったのに」
「話のネタとしちゃ最高だけど、実際にそうなったら恥ずかしさで俺は街に引きこもるぞ……」
せっかく最強のプレイヤーに勝てたのに、あっさりと雑魚モンスターに倒されるのは勘弁したい。勝利の余韻が台無しになってしまうし、あまりにも馬鹿馬鹿し過ぎて笑い者になってしまうだろう。
「そうだ、ナギ。ハイドラをキルしたのなら所持金を半分ぶん獲れるはずだが、メッセージは出ていないのか」
「えっ? あ、出てるな。忘れてたわ」
「お前忘れ過ぎだろ……。ニワトリかなんかかよ」
「うっせー。勝利の余韻に浸ってたからだよ」
ムサシに言われてメッセージの存在を思い出した。ハイドラをキルした事で、ハイドラが所持していたGの半分を取得出来る権利を得たのだ。〈Yes〉のボタンを押すとハイドラの所持金の半分が俺の所持金になるのである。
「まぁ、金を奪う事が目的じゃないからいらねぇけど」
とは言え、俺の目的はハイドラをぶっ飛ばす事だったのだ。別にGが欲しくて戦いを挑んだわけじゃない。目的が達成出来たのであれば、その他を多く望むのは筋違いだろう。でなければ、最初に定めた目的が嘘になってしまう。
俺は迷い無く〈No〉のボタンを押した。同時にムサシが若干呆れたような――――あるいは感嘆したかのようなため息を吐いた。
「無欲だなぁ。オレならついでにハイドラの金も奪っとくぜ? 貰えるもんは遠慮無く戴くのがオレの流儀なんでな」
「別にそれでも良いんじゃね? ただ俺は単純に金まで貰っていくのは違うと思っただけだ。男同士の一対一を金なんかで汚したくは無い」
「……なんか、金が欲しいとか言った自分が恥ずかしくなるわ……。なんという圧倒的な雄度、これが元不良の生き様なのか……!」
「あっ……やっぱり元不良だったんですね……なんとなく、そんな気はしていましたが……」
別に不良だったからというわけでは無いのだが、一々説明するのが面倒だ。二人が勝手に納得しているようだったら、わざわざ訂正する必要も無いだろう。
「さて……もうここには用は無いな。最初の街に戻ろうぜ。これからダンジョンとかに挑む気力は残ってねぇや……」
ハイドラを倒した事で一つの目標、難題は達成した。ハイドラが打倒された事で考えを改めて、今までの迷惑行為を反省して控えてくれるかどうかは分からないが、とりあえずはぶっ飛ばしてスッキリしたので良しとする。
ならば次の旅路に出るのが妥当だが、今日はハイドラとの戦いに全力を出し尽くしてしまって力が出ない。さっさとログアウトしてゆっくりと身体と精神を休めたいところである。
「そうだな。最初の街に帰るか。で、〈銀の大木亭〉でハイドラ討伐記念パーティーでも開くとするか!」
「そうですね……! 頑張ったナギさんを労うパーティーをしましょう……! ……勝手に討伐記念とかしてしまって、ハイドラさんには悪いですけど目を瞑ってもらいましょうか……」
と思っていたのだが、何かムサシとマリーが盛り上がってパーティーとか言い出し始めた。ボスモンスターを倒したわけじゃ無いのに、そんな派手に祝う必要は無いのだが。
しかし、俺の為にパーティーを開いてくれるそうなので、俺は口を挟まなかった。せっかく二人が労ってくれるというのだから、何も言わずに俺は受け入れる事にしたのだ。
(やれやれ。ま、ログアウトして怠けるよりかは有意義だよな)
一人で過ごす時間も大切だが、友人と楽しく過ごす時間は更に大切だ。そちらの方が精神的な疲労が早く回復するだろう。
などと考えながら、俺達は帰路に付いた。これから行う戦勝祝いのパーティーに心を踊らせながら、のんびりと雑談しつつ歩いて行くのであった――――。
――――――――――――――――――
しかし。
最初の街に辿り着く直前にとあるプレイヤーと再会してしまった。
「……さっきぶりだな、不良騎士」
最初の街に入る為の門。
そこで俺達を待ち伏せるように、壁に寄りかかって佇んでいたのは――――つい先程まで死闘を繰り広げていた、竜騎士ハイドラだった。
「おい、ムサシ。アイツなんで壁に寄りかかって待ってたんだ? つーか、なんで腕組みして格好付けてんだ?」
「しっ! 言ってやるな、ナギ。アレは男なら一度は憧れる登場の仕方なんだよ。ここはハイドラに合わせて『……くっ! なんの用だ、竜騎士! 早くも復讐しに来たのか!?』って中二っぽく言っときゃいいんだよ」
「盛大に人を馬鹿にしているな、君達……」
あまりにもクサイ待機の仕方に、思わずムサシとヒソヒソと話合ってしまう。もっともハイドラに全て聞こえてしまっていたが。
「……あの……ハイドラさん? その……何かご用でしょうか……? まさか本当に復讐しに……」
マリーが警戒しながら、おずおずと尋ねる。その質問にハイドラは首を横に振りながら答えた。
「いや、復讐なんてするつもりは無い。不良騎士に用があるのは正しいが、戦うつもりは一切無いから安心して欲しい」
「……そうですか……。なら安心です……。隙を突いて魔法を叩き込む必要は無いようですね……」
「見た目に似合わない過激な発想にビックリした……。君ももしかしたら、不良騎士に負けずとも劣らない精神の持ち主なのか? 黄色の少女よ……」
「……いえ、ナギさんに比べたら私なんて……って、その呼び名は何ですか……?」
確かにマリーは黄色の髪の毛だが、やや安直な呼び名では無いだろうか? 俺の不良騎士という呼び名も大概だと思うが。
とりあえずこのままでは話が脱線しまくりそうなので、単刀直入にハイドラに用件を尋ねる。
「……で? 復讐しに来たんじゃねぇなら、何の用で来たんだ?」
「何、単純に御礼をしに来ただけだ。長年の夢を叶えてくれた君に、最大の感謝をな」
「感謝ねぇ……」
普通は自分をキルしたプレイヤーに対して御礼なんてしない。御礼参りはするかもしれないが、感謝の意を示すプレイヤーなんてそうそういないだろう。よっぽど自分を倒してくれた事に感動を覚えたのだろう。
「まぁ、流石にさっきまで戦っていた相手に御礼を言うなんてどうかと思い、日を改めようとはしていたのだが……〈子飼〉のプレイヤーに言われてな」
「あっ? なんだ〈子飼〉って?」
「そこの剣豪と黄色の少女と共に居た女性プレイヤーの事だ。確かミケネコとか呼ばれていたか?」
「あぁ、アイツか……」
そういえば、ハイドラとの戦いが終わった後にミケネコの姿を確認していない。いつの間に消えていたのか知らないが、今の今まですっかりその存在を忘れていた。結局ミケネコは何の為にハイドラを観察したり、俺に近付いて来たのか分からなかったな。
「戦いの後に彼女が訪れてな。敗北者たるもの、勝者には従うべきだと言われたんだ。それで勝者たる君の願いを叶える為に、こうして最初の街の門で待っていたという訳だ」
「……私達が最初の街に帰って来ずにログアウトしていたら、どうしていたんですか……?」
「………………………………まぁ…………その時はその時だ」
「何も考えずに待っていたのか……」
「意外と杜撰な奴だな、お前……」
戦闘能力は桁違いに高い男であるが、それ以外の事柄に対しては俺達とそう変わらないのかも知れない。というより、何処と無く天然気質な人物なのだろう。
「ともかく、だ。〈子飼〉の言う事は正しい。君が僕に何かしら望むのであれば、最大限の努力を持って応えよう」
「応えよう……って言われても……」
願いだのなんだの言われても、正直何も願う事など無い。ハイドラへの個人的な制裁はもう良いと思うし、欲しい物ややって欲しい事も特には無いのだ。
「僕のGが欲しいというのなら全て差し出そう。レアアイテムが欲しいのなら取って来よう。倒して欲しいプレイヤーが居るのなら頸を刈って来よう。どんな願いも可能な限り叶えよう」
「全部要らねぇ。金もアイテムも、ましてやPKもな」
ハイドラのPKにムカついてPVPを挑んだのに、俺が誰かのPKを望むのは間違っている。正当な理由があるのなら別だが、その場合でもハイドラの手を借りずに、自分自身の手で始末を着けるべきだろう。
「ハイハーイ! ナギが何にも願いが無いっつーなら、代わりにオレの願いを叶えてくれよ!」
「却下だ。君は僕に勝利していない……どころか戦ってすらいないだろう。冗談は髭だけにしておけ、剣豪」
「正論! めちゃ正論だけど髭は関係無いだろ!?」
どうやら俺が言った願いしか叶えないようで、ムサシの発言は即座に却下された。
とは言えども、俺には本当にやって欲しい事なんて無い。わざわざ説得してくれたミケネコには悪いが、ここは断っておこう。
「あー……だったら特にねぇや。てめぇをぶっ飛ばして満足したし、それ以上は何も望みは無いぜ」
「何だと? ……だとしたら困るな。これでは僕が不義理を働いた事になってしまう。何としてでも願いを言って貰わなくては、再び〈子飼〉に文句を言われてしまう……」
「マジで面倒だなお前!?」
真面目なのは良いとして、この融通の利かなさはどうだろうか。もう少し柔軟な対応を心掛けてくれたのなら、俺もわざわざリベンジマッチなど仕掛けなくても済んだというのに。
とにかく、何かしら言わないとハイドラは帰ってくれないらしい。面倒だが、適当な事で誤魔化すとしよう。
「えーと……ならアレだ。もう二度と辻斬り染みた事はしないでくれ。俺もそうだが、大多数のプレイヤーが迷惑しているしな」
「……成る程。確かにそうだな。もう周囲にヘイトを撒き散らさなくても、十分に僕に恨みが集まるだろうし、止めてしまっても問題無いか……」
ハイドラの迷惑行為には腹が立っていたので、こうして止めさせるのに勝者の特権を使うのが正しいだろう。俺としては勝者からの命令で止めさせるのでは無く、自主的に辻斬りを止めさせたかったのだが、背に腹は代えられないので良しとしよう。
「委細承知した。これからは手当たり次第にPVPを挑むのでは無く、ちゃんとプレイヤーを選んで襲い掛かるとしよう」
「何にも承知してねぇよソレ!? 一方的に襲い掛かるのを止めろっつってんだよ!」
「…………? 君は理不尽に弱者が襲われるのが嫌なのだろう? ある一定以上の強者なら、泣き寝入りする事も僕に怯える事も無いだろう」
「それはそうだけど! 突然の強襲は迷惑極まり無いんだよ! 迷惑行為は認めませーん!」
「なんと。だとすれば僕はどうやって餓えを満たせば良いんだ……。何故か大半のプレイヤーは僕を見掛けただけで逃げていき、戦いにすらならないというのに……」
「……自身の今までの行動を鑑みれば、理由は直ぐに分かると思うのですが……」
露骨に落ち込むハイドラ。とは言え約束は約束だ。如何なる願いも叶えるとハイドラ自身が言ったのだ。一度口に出した約束は守るのが、男としての最低限のマナーである。
これが俺がハイドラに勝利していないのであれば、俺はハイドラに強制させる事は出来ない。しかし、事実として俺は勝者なのだ。少々悪いが、ハイドラにはしっかりと釘を刺しておくとする。
「てめぇが戦いに全てを掛けてるのは理解している。だが、てめぇの戦闘に置ける信念が、他のプレイヤーの迷惑になっているのも事実だ。てめぇは俺に敗北したんだから、俺の言うことには従って貰うぜ」
「むぅ……了解した」
ハイドラはやや苦々しい様子で首を縦に振る。納得はしていないようだが、奴にも信念や義理というものがあるのだろう。結局の所は了承してくれた。
これでハイドラが戦闘で自身の餓えを満たす機会は減ってしまった。とは言え《神世界アマデウス》には無数のプレイヤーやモンスターが存在するのだ。自身から戦いに赴かなくとも、何れはハイドラが望むような戦いが始まるのではないだろうか。
というか、そもそもの話――――。
「ていうか、そんなに戦いたいんならよ。俺にリベンジマッチでも仕掛けりゃ良いじゃねぇか」
「「…………え?」」
俺の発言を受けて、ムサシとマリーが目を丸くしてすっとんきょうな声を上げた。ハイドラに対して言ったはずなのに、何故二人が驚くのだろうか。
肝心のハイドラは声こそ上げなかったが、やはりムサシ達と同様に驚いているようで、首を傾げて疑問符を浮かべていた。
「……リベンジマッチだと? 言っておくが、先の戦いは完全なる君の勝利で幕を閉じた。今更戦いの結果に不平不満を言って覆す気は無いぞ?」
「別にリベンジするのと結果を覆すのとを一緒くたにする必要は無いだろうが。勝者敗者を決めた後にまた戦ってはいけない、なんてルールは存在しねぇだろ? さっきの戦いは俺の勝ちで一旦置いといて、それはそれとして再び殴り合っても問題無いだろう」
如何なる理由、如何なる内容であったとしても、先程の戦闘が俺の勝利で終わったという事実は揺るがない。仮にハイドラが手加減して戦っていたとしても、ハイドラが全力を出していなかったとしても、結果的に最後まで立っていたのは俺だ。それについてはとやかく言うつもりは無い。
だが、一度の戦いや会合で全てを決める必要は無い。今回は俺が勝利したので俺に従って貰うが、それで全てを終わらせるのは間違っているだろう。ハイドラにだって再び立ち上がる権利はあるのだから。
「そもそも、俺はてめぇに一度ボコボコにされてるんだぜ? それでも敗北を認めずに鍛え上げて、こうして仕返しをしたんだ。だったらてめぇも同じ事をすれば良いだろうがよ」
「あー……確かにな。ナギはハイドラにキルされているし、ハイドラもナギにキルされた。今のところは一勝一敗している、とも取れるわけか……」
「そうそう! 一回や二回程度の争いで終わらせる必要はねぇ。互いが満足するまで、何度でも喧嘩して、殴り合って、認め合って……」
これが現実世界の話であるのなら、何度も争うのは不毛だと一蹴するべきだろう。だが、ここはVRゲーム《神世界アマデウス》の中だ。ゲームである以上は、プレイヤー同士で何度も戦い合うのも許されるだろう。
「人様に迷惑掛けるのはNGだけどよ。相手が了承している分にははっちゃけても良いと思うぜ、俺は。せっかくのゲームなんだから、楽しめないと嘘ってもんだろう?」
ハイドラの行動で俺が気に入らなかったのは、一方的に襲い掛かってはPKしまくり、数々のプレイヤーに恐怖心を抱かせているところだった。他のプレイヤーに迷惑を掛けておいて平然としている様に腹を立てたのだ。
だから、迷惑を掛けないのなら、ハイドラがどのような事柄に熱中しても文句は言わない。強敵との死闘を望むのであれば、それはハイドラの自由だ。
俺にリベンジしようとするのなら、俺は構わない。俺だけしておいて、ハイドラにはリベンジさせない――――なんて戯れ言は通用しないだろう。それは一種の不平等である。
「一度目はてめぇが俺を倒した。二度目は俺がてめぇをぶっ飛ばした。なら、三度目以降があっても良いだろう。俺とお前、どちらが真の勝者かを決める為に、互いが納得するまで続ければ良いんだよ」
「…………成る程な。確かにその通りだ」
ハイドラも理解したようで、頷きながら肯定してくれている。
「あの戦いは君の勝利で終わった。僕は人生初めての『敗北』を味わい、長年の夢を達成出来た」
しかし――――とハイドラは続ける。
「満足感に浸れると思いきや、そうでは無い。むしろ君に敗北した事で、僕は新たな飢餓感に苛われる事になってしまった」
「……えっと……それはどんな……?」
「決まっている。『悔しさ』と『新たな勝利』への餓えだ。敗北を味わったら満足出来ると思ったのに、この二つの感情のせいで全く満たされないんだ……」
「まぁ、だろうな」
敗けて満足出来る奴なんて、そうそういないだろう。ハイドラは今まで敗北した事が無かったから知らなかったのだろうが、普通は敗けたら悔しいものなのだ。
勝利する事が当然の奴には分からなかっただろう。悔しいから勝利の為に努力するという事を、勝利の為に皆と協力し合うという当たり前の事を。
そして、悔しさや努力の果てに掴み取る勝利こそが、真に満足出来る価値あるものだという事を。
「ならばこそ、この雪辱を晴らす為に再び自身を鍛え上げよう。この悔しさを胸の内に刻み付け、次の勝利を目指して精進するとしよう」
「……なら俺もてめぇに敗けないように頑張らねぇとな。そう簡単には勝利はくれてやらねぇぜ?」
そうして互いを鼓舞し、ライバルとして認め、負けじと鍛えて競う。
それこそがプレイヤー同士での戦いの在り方であると、少なくとも俺は思っている。互いに敗北を認めずに切磋琢磨し続ければ、無限に強くなれると信じている。
何しろ、ここは現実に似て非なるVR世界の中だ。多少の理不尽や不条理をはね除ける力は誰でも手にする事が出来る世界――――故にこそ、リアルでは出来ない事が出来るのだ。
俺も、ハイドラも、ムサシやマリーだって、無限の可能性を信じて楽しむ権利を得ているのだ。それは誰であろうと否定出来ない真実である。
最強に挑む。最強が挑む。
無理難題すらも一種の楽しみと成る。それこそが《神世界アマデウス》というゲームの本領だ。
「――――不良騎士。次に戦う機会があるのであれば、君との真の決着はその時に着けよう。今は思い上がっていた自身の性根を叩き直さないといけないからな」
「いいぜ。俺もてめぇに本当の意味で並び立つ為に、もっとレベルを上げておく」
――――俺達の戦いに果てがあるのかは分からない。次もハイドラに勝てるのかも分からない。次はハイドラが勝つのかも分からない。もしかしたら、互いに諦める事無く挑み合い、無限に競い合ってしまうのかも知れない。
けれど、今はそんな事はどうでも良い。勝てるのか敗けるのか、次の戦いはいつの機会になるのか、なんて事は未来に託せば良い。
「――――次は僕が必ず勝つ」
「――――次も俺が絶対に勝つ」
「「――――だから首を洗って待っていろ」」
今は互いを見送るのみ。
再戦の約束を交わして、それっきりで別れるとしよう。
いずれ来たる本当の決戦に備えて、それぞれの手段で己を鍛え上げる事こそ、今の俺達に必要な事だ。
次に会ったのであれば、俺は再び拳を構えよう。
それこそがハイドラに対する最大の礼儀であり、最大の賛辞となるのだから。
次回は祝勝会と一章のエピローグになる予定です。




