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神世界アマデウス  作者: 三神ノブノブ
第一章 神世界へようこそ
22/25

第二十一話 竜騎士ハイドラ・その四


 では、ハイドラ戦・その四です。危機的状況に陥ったナギは、どのように逆転するのか。

 誤字、脱字がございましたら、報告をお願いします。



 ハイドラはゆっくりと摺り足で此方にへと近付いて来る。

 俺はファイティングポーズを構えたままに腰を引き、いつでも回避出来るように体勢を整えている。


 風の吹く音すら明確に聞こえる程に静寂な戦場。

 されど、そこにははっきりとした攻勢と防御の対立が存在していた。


 腰を引いた状態――――逃げの一手しか取れないとは情けない話だが、それも仕方の無い話である。俺の残りのHPは二割を切っている。迂闊に動いて攻撃を受けてしまえば、下手すれば一撃でキルされてしまうのだ。

 今は攻めてはいけない。最低限のHPを残しつつハイドラに勝つ為の方法を思い付くまでは、回避に徹して機を待つしかないのだ。



「…………辛い状態だな。ハイドラの残りのHPも多くは無いが、まだ二、三発は受けても問題は無いぐらい量は残っている。対してナギのHPは風前の灯火だ……。あのHPだと無理な攻撃に出れないよな」


「……見てるだけでハラハラします……。ハイドラさんには圧倒的な速度を誇るハイジャンプがあります。ナギさんに隙が出来てしまったら、その瞬間にハイドラさんは突撃してくるでしょうね……」


「向こうにはごり押し出来る余裕があるのに、此方は慎重にいかないと即アウトだ。ナギに掛かっている精神的なプレッシャーは相当なもんだろうよ」


「うーん? ナギの遠距離攻撃って魔法ぐらいしか無いよね? MPってまだ残ってるのかな? 魔法が使えないんじゃ、ハイドラの懐に入り込む事すら出来ないんじゃないの?」


「後一発ぐらいは使えるな。それをどう使うのかが勝負の鍵を握るな……」


「後一発かぁ。厳しいねー…………って、ナギって一つの詠唱で魔法を二発放っていたよね? どういう原理で魔法を二発放っているかは知らないけど、それを利用すれば二発はいけるんじゃない?」


「……ナギさんがセットしている【マイスキル】の一つに【両立する魔法の発現】というものがあります……。武器を二つ以上所持している限り、一つの詠唱でそれぞれの武器から同一の魔法を放つ事が出来るスキル……。単純に魔法攻撃を瞬時に二回行う事が出来る便利なスキルなのですが……」


「同時にMPも二発分消費しちまうんだよ。《騎士型(ナイトスタイル)》は前衛タイプの【クラススタイル】の中じゃMPが多い部類に入るが、それでもバカスカ魔法を乱用出来るレベルじゃねぇ。一気にMPを大幅消費するスキルを付けて魔法を使っていたら、そりゃ一瞬でMPを使い切るわな」


「……なるほどにゃ~。しかもナギは協力な【必殺技】も使用したから、MPも底を尽き掛けているのか。ますます厳しい状況なんだね」


「HPもMPも少なく、相手は格上の存在……。普通なら真っ当にHPを削られて、何の捻りも無く倒されて終わりだが……」


「……それでも、ナギさんなら。ナギさんなら、必ず逆転して勝利してくれます…………!」



「……と。外野はああ言っているようだが、君はその期待に応える方法を持ち合わせているのか? あるのであれば出し惜しみ無く使って、僕を倒してみせて欲しいが……」


 ハイドラは油断をせずに距離を詰め続けている。自分自身を打倒してくれる事を望んでいるのに、奴は手加減をする事無く俺を仕留めるつもりなのだ。恐らくは全力の戦いの果てに倒されたいからなのだろうが、なんとも面倒な男である。


(さて……どうやってアイツの攻撃を避けて懐に入って殴り付けるか。その方法を考え付かなきゃマジで敗けちまうな……)


 巧く鎧で受けながら突進すれば、残りのHPを削り取られずに懐に入り込めるかも知れない。だが、単純な攻撃をしただけではハイドラに迎撃されてしまって終わりだろう。奴にはハルバートだけでは無く投げ技もあるのだから。

 ハルバートを掴んで無理矢理奪って遠くに捨てる――――という方法も思い付いたが、そもそもハルバートを奪い取れる程にSTRの数値に開きがあるかも分からないので却下した。というか、むしろハイドラの方がSTRが高いだろう。高確率で失敗する策なんてしない方がマシだろう。

 ハイドラが俺の頸を斬ろうとした瞬間に頭突きで刃を弾いて、その隙に反撃を繰り出す――――という方法も駄目だろう。一瞬の隙を突いたぐらいではハイドラは即座に対応してしまうだろう。


 考えても考えてもハイドラの虚を突く手段・方法が思い付かない。如何なるパターンを構築しても、ハイドラにあっさりと対応されてしまう未来がありありと想像出来てしまうのだ。

 防御、迎撃、攻勢、回避、反撃、受身、逃走…………と、あらゆる手段をシュミレートしては否定する。博打に出なければ勝てないが、しかし絶対に勝てないと決まった勝負事に挑むのは、愚か者が捨て鉢になってする行為だ。俺はまだ勝負を投げ出すつもりは無い。


「…………後三歩。それが君に残された猶予だ。三歩目を踏み込んだ瞬間に、僕は君の頸を獲る。それまでに反撃の手段を講じてみろ」


 ザリッ。

 ハイドラが一歩、俺に近付く。猶予はほとんど残されていないらしい。ハイドラは宣言通り三歩目に到達した時点で攻勢に出て、以後は一切の容赦をせずに攻めたてて俺の頚を斬り飛ばすだろう。


(クソッ! どうする? どうすればハイドラの残りHPを削り取れる? 何も一回の攻防で全てを削り切る必要は無いんだ。ハイドラの攻撃をなんとか避けて、攻撃を当てて減らし、その後に仕切り直せば、とりあえずは対等な条件下の戦いに持ち込めるはずだ)


 どうすればハイドラに勝てるのか。どうすれば勝利をもぎ取れるのか。

 道筋を探す。最後の瞬間まで模索する。諦めなんて言葉は彼方に置いてきぼりにして、目の前に立つ強敵を打ち倒す方法をひたすらに考える。


 ザリッ。

 二歩目を踏み込むハイドラ。もう時間なんて残されていない。

 どうしても思い付かない。どうすれば良いか、どう動けば良いか、全く持ってして思い付いてくれない。

 俺は歯噛みする。俺は自身の不甲斐なさに怒り、自身の無力さに憤る。


(何してんだよ、俺は……! こんな絶望的な状況なんて中学時代に腐る程あっただろうが! なのに、反撃の手段すら思い付かないなんて……)




 ――――不意に。

 中学時代の情景が脳裏に浮かんだ。


(待て……。そういや、似たような状況に中学時代もなった事あったっけ。確かアレは”高景霧藤の四天王“の一人と戦った時だっけか)


 中学時代に一対一(タイマン)の喧嘩をした相手――――高岡という男との戦いを思い出した。四天王最強とも称された、どう見ても中学生には見えなかった巌のような大男との戦いの記憶だ。

 ハイドラと違って武器を持っていなかったが、2mを越す身長から繰り出される一撃はリーチ、威力、速度が桁違いであり、近付く事すら容易では無かった。更に多少殴ったり蹴ったりしても物ともせずに、攻撃を受け切ってから反撃に転じる度量も持っていたのだ。

 俺は満身創痍になりながらも、なんとか高岡の巨体を地に沈ませる事が出来たのだ。真正面からの殴り合いでは勝ち目が無いので、とある手段を取って殴り勝ったのだ。


(……相手は遥か格上。リーチも相手が上。だが――――小回りは此方が効く)


 多少は違うが、今の状況は高岡との戦いの時と似ている。ならば、あの時の戦法がハイドラにも通用する可能性がある。

 成功率は半分以下。だが、零で無い以上は挑む価値がある…………!



 ザリッ――――と。

 ハイドラが三歩目を踏み出した。


「――――――――ッ!」


 瞬間、ハイドラは爆発的な加速力を持って一直線に俺に突っ込んで来た。

 【跳躍強化】のスキルを斜め上では無く、ほぼ真横に使用する事での超加速。コンマ以下の時間で最大を超えた速度に到達し、最短の距離と最低限の動作を持って俺の頸を狩り獲らんとする。

 音速の域を越えて、神速の域に達するかも知れない速度で、俺の最後のHPを削りに来る――――。


「――――やるしかねぇよなぁ!!」


 最早、他に手段は無い。この賭けに乗らなければ敗北を味わうだけに終わってしまう。

 命というチップは既に投げた。ならば後は己の全力を信じて、神速に挑むのみ――――!!



 ハイドラがハルバートを振るう。死神の刃が俺の命を狙う。


 一瞬先の未来が見える。賭けに敗北すれば、刃は呆気なく俺の最後のHPを残さず持っていってしまうだろう。


 一秒先の結末が脳裏に浮かぶ。高岡の時もそうだった。俺は自分自身の敗北する瞬間が、脳内に浮かんでいたのだ。


 だが、それ以上に。


「だらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


「――――――――ッ!?」


 ――――自分が勝利する瞬間が、ありありと脳内に浮かんでいた!



 渾身の力を込めて踏み込む。

 全霊の力を込めて加速する。

 神速に挑む為、神速を凌駕する為、俺は全力で身体を動かす。


 目指すべき地点は決まっている。覚悟は済ませた。

 後は俺がこの賭けに勝つのみだ。


 最大の力を持ってして放つのは、最速のストレート。

 単調な、あるいは単純な攻撃であるが故に、一瞬だけならばハイドラの速度に並ぶ攻撃。

 それを相手の顔に放つ訳では無く。相手の身体に放つ訳では無く。



 ――――迫り来るハルバートそのものに向けて放った。



 ガッッッッ――――!


 甲高い金属音が鳴り、その後の音が消える。


 ハルバートはハイドラの手から離れて、後方にへとすっ飛んでいく。

 神速の一撃と渾身の一撃がぶつかり合い、余りの衝撃にハイドラの膂力ではハルバートの所持が維持出来ずに手放してしまったのだ。

 俺も右腕が痺れ、HPが少し減った。が、それでもまだ動けるし、HPもまだ一割は残っている。HPの減少量こそが勝負の分け目であったが、どうやら俺のHPは根性のある性質であったようだ。


「ぐぅっ……!? 僕とした事が、武器を手放してしまうとは……!」


 ハイドラは確かに強い。戦闘技量ならば俺の遥かに上を行くだろう。

 だが、俺も中学時代には数々の強敵を殴り倒して来た実績がある。素手喧嘩(ステゴロ)なら敗ける気はしない…………!

 ハルバートのリーチを無くした今、自分の武器を無くした衝撃に呆けている今なら、一気にHPを減らす事が出来る。


「オラァッ!」


「ガッ!?」


 俺はハイドラの顎をアッパーで打ち抜いた

 一切の妥協はしない。一瞬も気を緩めず、攻撃の手も緩めずに、連続連打でハイドラを倒し切る。このチャンスこそが、俺に与えられた最後の好機だ。


「ハイドラァァァァァッッ!!」


 とにかく殴る。とにかく蹴る。一瞬も攻撃を途切れさせず、一切の反撃も許さずにハイドラを仕留めに掛かる。

 しかし、相手もただでは終わらない男だ。


「――――まだだ、不良騎士!!」


 一瞬の隙を突いて俺の肩と腕を掴み取るハイドラ。恐らく、俺に止めを刺す為に投げ技を繰り出すつもりなのだろう。

 だが、精彩に欠けた荒い掴み方だ。ハイドラも流石に焦っているようだ。これならば俺でも対応出来る。


「ドラァッ!」


「グッ!?」


 頭突きを繰り出してハイドラの顔面に衝撃を与えて怯ませる。ハイドラの掴みが緩んだ隙に拘束を振りほどき、再び攻撃の嵐を降り注がせる。

 ハイドラのHPがみるみる減っていく。ついには二割以下にまでに落ち込んだ。ハイドラのHPも風前の灯となったのだ。



「す……すっっっご!! 普通あんな霞むスピードで迫るハルバートの刃を殴ろうとする!? バカじゃないの!?」


「だが、効果は絶大だぜ!! ハイドラは武器を失った! 素手同士ならナギの方が上だろ!! …………多分!」


「…………ナギさん! 頑張って下さい! 勝って!!」



「グッガッ……!! き、みは……本当に面白いな……!!」


 ハイドラは殴られながらも称賛の言葉を口にする。余裕なんて無いはずなのに、それでも俺を健闘を称えようとする。この男もこの男で妙な所で律儀な奴である。


「だが、このまま敗けるつもりは更々無い……!!」


 ハイドラは拳を振るって此方を牽制してきた。この攻撃自体は対して問題無く捌く事が出来たが、ハイドラは隙を付いて後方にへと跳躍した。


「【跳躍強化】……!? ハルバートを回収するつもりか!?」


「ハルバートが回収されたら勝ち目が無くなるよ!? でも、あんな速度で下がられちゃ追い付けない!!」


 ハイドラは俺と殴り合いを続けるより、自身の武器を回収して仕切り直すという手段を選んだようだ。互いのHPの残量を鑑みて、俺がガントレットという近接戦に有利な装備を付けているのを見て、距離を置こうとしたようだ。


「ちぃっ!」


 今から走り出しても間に合わない。ハイドラの速度には追い付けない。俺がハイドラにへと到達した頃にはハルバートを回収し終わり、悠々と迎撃する準備が出来ているだろう。

 ならば、やるべき事は一つ。ハルバートを回収する前に一撃当てて、相手を怯ませるしか無い。そうすれば追い付けるはずだ。


 俺は駆け出した。同時に右手ガントレットを両刃剣に変形させて装備する。左手には小型ナイフを手の内に出現させる。

 ハイドラがハルバートを手にする直前に、俺は小型ナイフを走りながら投擲した。魔法を使用している時間が無かったので、ただ小型ナイフをぶん投げただけだ。


「今更飛び道具なんて!」


 ハイドラは左手で飛んできたナイフを捌き、叩き落とした。やはり多少の小細工ではハイドラの動きを止めるのは難しそうだ。


 だが、それは予測していた。ハイドラならば小型ナイフにはあっさりと対応してしまうと。

 だから俺は第二の投擲物を瞬時に準備して投げたのだ。


「なっ――――!?」


 俺が投げたのは、右手に装備した両刃剣。

 かつて暴言プレイヤーに向かってぶん投げた時のように、両刃剣は高速回転しながらハイドラへと飛んでいき、ハイドラの身体を斬り付けながら激突したのだ。

 先に小型ナイフを弾いた際に体勢を多少は崩していたのだろう。ハイドラは両刃剣を左肩に受けて大きく仰け反ってしまう。


「ハイドラァァァッ!!!」


 そして俺は追い付いた。二つの悪足掻き染みた投擲によって、ハイドラのハルバート回収を阻止したのだ。

 ダンッ! と踏み込んでハイドラの顔面に拳を叩き込む。右手のガントレットは無くなってしまったが、それでも構わずにハイドラの身体を殴り付ける。


「――――ガントレットを無くしたのは失策だったな! まるで威力が無いぞ!!」


 しかし、ハイドラは拳を顔面に受けながら尚も反撃してきた。俺の腕を掴み取り、背中に身体を背負い込んだ。一本背負いの要領で俺を地面に叩き付けるつもりなのだろう。


「まだ終わらねぇぞ!!」


 俺は小型ナイフを左手に出現させて、投げられてしまう前にハイドラの脇腹にナイフを突き刺した。


「ぐっ……おおおおおおおお!!」


 ハイドラは動きを一瞬止めたが、構わずに一本背負いを続行する。俺の残りHPを消し去る為に、根性で攻撃に耐え切ったのだ。

 身体が宙に浮かび、弧を描いて地面へと叩き付けられる。衝撃が背中から全身に向かって走るが、しかし思ったよりは威力が無かった。流石にナイフを刺された状態での投げ技は力が入らなかったようだ。


「くっ……HPを削り切れなかったか……! 存外しぶといな……!」


「諦めない限り敗北じゃねぇんだよ……! 最後の一瞬を過ぎたとしても、俺は諦めねぇ!!」


 まだチャンスが残っている。まだ勝つ為の手段は残されている。

 ハイドラの脚を掴んで持ち上げる。ハイドラはバランスを崩して地面にへと倒れ込んだ。


「むっ……!? まだ小細工を……!?」


 ハイドラが立ち上がる前に俺も立ち上がる。同時に左手のガントレットを変形させてスモールシールドにし、右手に持ち替える。スモールシールドは防具であるので、本来ならばこれで殴り掛かっても余りダメージは与えられないのだが、攻守に使えるガントレットを変形させている為に攻撃力も十分に保有しているのだ。

 ハイドラが立ち上がり俺と相対する。悠長に相手の攻撃を待っている時間は無い。俺とハイドラはほぼ同時に殴り掛かった。



「ハイドラァッ!!」


「不良騎士ィッ!!」



 互いのHPは残り僅か。一撃でも当てればその場で勝敗が決まる。

 攻撃のタイミングはほぼ一緒。ならば、後は素のSPDの数値で決まる。攻撃開始のタイミング、攻撃手段が同じであれば、攻撃速度が上回っている方が勝利するのは道理だ。

 そして――――残念ながら攻撃速度はハイドラの方が早いだろう。俺も鎧の幾つかの部位をナイフとして取り外し、かなり身軽となって素早くなったはずだが、それでもハイドラには追い付かない。


 竜騎士の拳が俺にへと迫る。敗北を告げる最後の刃が迫る。

 ここまで来て敗北の未来が明確に見えてしまった。持ちうる全ての武器と手段は使ってしまった。最早、俺が勝つ為の手段は残されていない。

 絶望が目の前を埋め尽くす。ハイドラの拳は俺より速く、俺の身体を打ち抜いてHPを消し飛ばす――――そんなビジョンが脳裏に映る。このビジョンを覆す手段を考える時間は、最早無くて――――。


(クソッ……ここまでなのかよ……!!)


 全力を尽くした。全てを出し切った。それでも竜騎士には届かなかった。最強には勝てなかった(・・・・・・)と、心がだんだんと沈んでいって――――。




「――――ナギさぁぁん!!!」



 ふと、視界の端に。

 両手を組み、祈るように――――あるいは願うように、俺を見つめる少女の姿が映った。



「――――――――おおおおぉぉぉぉぉぉッッ!!!!」


 誰かが俺の勝利を願っている。仲間が俺の勝利を信じている。

 なら、諦めてしまうという無様な真似は許されない。仲間の為に――――俺を信じる少女(マリー)の為に、俺は最期まで足掻き続けてやる。


 思考など不要。躊躇など無意味。

 最後の手段さえ無くなったのなら、後は本能に従って身体を動かすのみ。


 バッと、空いた左手を自身の後方に向ける。

 これが正真正銘、最後の賭けだ。どうなるかは俺にも分からないが、だからこそハイドラの虚を突ける可能性がある。

 ハイドラの拳が迫り来る中、俺は悪足掻きに等しい一文を口にした。


『火炎よ。外敵を貫く一矢と化せ!』


「――――!? 魔法だと……!?」


 魔法の詠唱。小型ナイフは所持しておらず、右手には防具であるスモールシールドを装備しているので、必然的に魔法の射出箇所は空いた左手の平に決定される。

 ゲームシステムに従って後方に向けている左手より射出された魔法は、そのまま直ぐ近くの地面に激突して爆発する。そして――――。



 爆発の余波が周囲に散らばる。衝撃波が俺の元にも、背中から伝わって来る。


 衝撃波は俺の背中を僅かに押して、俺の身体を前方に加速させた。


 加速した分、ハイドラの拳よりも俺の拳の方が早く相手に届くのは当然であり。



「――――――――御見事」




 俺の拳は。

 ハイドラの顔面に吸い込まれて炸裂し、竜騎士を吹き飛ばした。


 この一撃を持ってしてハイドラのHPは全て消滅し。

 ハイドラの身体は光に包まれて四散したのであった。




「……………………」


 拳を振り切った状態で静止している。否、静止せざるを得ないのだ。

 今、この瞬間の出来事を理解出来ていない。俺自身もそうだが、ムサシ達も呆けた表情のままに動きを停止してしまっている。

 俺はどうなったのか。何をしたのか。何を成し遂げたのか。


 不意に、目の前にメッセージが出現する。



〔プレイヤー〈ハイドラ〉をキルしました。所持金の半分を獲得しますか?〕

 〔Yes〕  〔No〕 



 そのメッセージを見て、ようやく俺はハイドラを倒したのだと理解した。俺が勝利したのだと、なんとか思い至り――――。


「…………っっっ!! シャアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」


 俺は嬉しさと興奮の余り、拳を天に突き上げて。


 勝利の雄叫びを上げたのだった――――。




 ハイドラ戦、決着!!

 新戦法を考えついたって、全部を使えるわけじゃない。最後の決め手はナギの不屈の精神と、マリーの声援でした。


 次回はハイドラ戦の後の話ですね。相変わらず期待はしないで下さい(えっ)。


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