第二十話 竜騎士ハイドラ・その三
お待たせしました。ハイドラ戦・その三です。いつまで続くんだ、この戦い……。
誤字、脱字がございましたら報告をお願いします。
攻めに入ったハイドラの戦い方は、相手の頸を狙って刃を振り一撃で仕留めるという、戦闘を楽しんでいるにしては容赦の無く遊びの無いものだ。
単純に突っ込んで斬る――――この動作を天才的な身体運びと足運びによって、回避と防御が難しい神速の一撃にへと昇華しているのだ。見た目以上に素早く動き、予想以上に鋭い一撃は、数々のプレイヤーの命を抵抗も許さずに刈り取ってきたのだろう。
ズンッと大きく一歩踏み出し、足首や腰、腕や手首や肩、頭の振りや重力までも利用した一撃を放つハイドラ。
当然の如く、狙いは頸。何度も何回でも同じ場所を攻撃するという愚直さは、目にも止まらない速度と暴風のような威力を持ってして脅威として実体化する。
左手の手甲を使って斬撃を受け止めて弾く。直ぐに反撃に移ろうとしたが、弾かれた刃は瞬時に軌道を変えて別方向より襲い掛かってきた。
「ッ! 速い……!」
「はぁっ!!」
一度戦った事のある俺ですら見切る事なぞ到底出来ない、天性の技巧によるハルバートの連続攻撃。殺気の感知と己の直感を総動員して辛うじて防ぐ事が出来ているが、それでも何発かは喰らってしまっている。
頸への刺突を弾けば、流れるように軌道が変わり払い攻撃に。
頸への払いを防げば、重力に身を任せて俺の真横を通り過ぎ、振り向き様に頸へ一閃。
頸への一閃を屈んで避けば、振り向いた反動を利用した蹴りが脇腹に突き刺さり、よろけてしまった所にハルバートの一撃が飛んで来る。
不用意に反撃に移れば、ハルバートで拳が弾かれて、防がれて、止められて、挙げ句の果てに逆に反撃される。
「マジで理不尽過ぎるだろ、てめぇの強さ……! どうすればそんな化け物染みた戦闘能力を手に入れられるんだか……!」
「才能としか言い様が無いな。何故か僕にはこうした《白兵戦の才能》とやらに恵まれていてな。努力をすれば必ず相応の強さを手にする事が出来る体質なんだ」
両腕をクロスしてハルバートの一撃を止める。そのまま力勝負と言わんばかりに鍔競り合いにへと移行した(もっとも、どちらも鍔なんて存在しない武器で戦っているのだが)。
「努力をすれば……? 鍛えたら鍛えた分だけ強くなるってか? んなもん誰だってそうだろうが」
「違う。筋力の話では無い。技術の話だ」
ギリギリとハルバートの刃とガントレットの表面が火花を散らす。筋力はハイドラの方が上なようで、こちらが徐々に圧されてしまっている。
「例えば、とある流派に奥義なるものがあった場合。常人ならば何度も奥義の動きをトレースして、その奥義を得る事が出来るだろう。一度で奥義を理解して会得出来る者なんてそうそう居ない――――数をこなして、1を何度も集めて、100という奥義を習得するものだ」
「……で? てめぇは一度でその100を得る事が出来るってか? 努力の努の字も見当たらねぇな、そりゃあ!」
「一度の努力で100をこなすのが僕の才能だ。常人は努力をしても報われるとは限らないが、僕は必ず報われるようになっている。努力を必ず対価に変える事が出来る――――そういう才能なんだ」
「便利なもんだな! ハルバートなんてどこの流派が使っているのかも分からないものを容易く操るのも、その才能のおかげなのかよ!」
力を込めてハルバートを弾いて、一歩距離を詰めようとした。しかしハイドラも素早く退いて距離を取り、再びハルバートをぶつけて来た。
「それは少し違うが……。まぁ、僕の才能によって使われているとすれば、強ち間違いでも無いな」
「っ…………! にしても自慢ばっかしたり、一方的にプレイヤーを襲ったり……そんだけ自分が強いって思ってるのか!? それをするだけの権利があると、本気で思っているのかよ! このナルシスト野郎!!」
ハルバートの攻撃を弾いて弾いて弾いて弾いて弾いて――――しかし、弾き切れずにまともに受けてしまって、衝撃によって身体が後方へ吹き飛ばされてしまう。
「ちっ……!!」
衝撃をバク転しながら逃がして体勢を整える。ハイドラの追撃に備えて素早く拳を構える。
「――――当然。ナルシスト扱いされるのは不愉快だが、僕が実際に一般人よりも遥かに強いのは事実だ。事実である以上は、それを受け入れた上で行動しなければならないだろう……?」
「その結果が一方的な蹂躙か!? 強さを見せびらかして、自分の脅威を知らしめるのが、てめぇの強さに対する答えなのか!?」
ハイドラが接近して来る。こちらも合わせて突っ込んで行き、体勢を低くして懐にへと入り込み顎に向かってアッパーを放つ。
ハイドラはそれをハルバートの柄で受け止めて、俺の動きが一瞬止まったのを見計らって膝蹴りを叩き込んで来た。俺はそれを左手で受け止める。
「僕が強いのは当然の事だ。見せびらかす必要も知らしめる必要も無い。僕が望むのはただ一つ――――」
俺が身体全てを加速させて体当たりを仕掛ける。しかしハイドラはすれ違うように体をずらして、体当たりを避けた上にハルバートを振るって俺を大きくぶっ飛ばした。
「――――この渇きを癒してくれる強敵の存在のみ!」
「ぐおっ…………!!」
HPがけっこう削られてしまった。せっかく広げたHPの差が徐々に埋まりかけている。何か手を打たないとこのままジリジリと削られてしまい、いずれは俺が地に伏す事になるだろう。
距離が空いたので再び鎧のギミックを利用してナイフを両手に出現させる。ハイドラは追撃して来ずにナイフに備えてハルバートを腰を据えて構えた。
「僕は強い。誰よりも強い。だからこそ欲しているんだ。僕を打ち負かす程の逸材を、僕と並び立つ程の猛者を!」
「なんでそんなに戦いを望むんだ!? 強敵が欲しいとか、渇きを癒すとか、少年漫画じゃあるまいし!」
「子供染みた発想で結構! 余りにも強過ぎると日常に刺激が無くなる。勝利が必然となれば戦いに意義を無くす。こういうのを『過ぎたるは及ばざるが如し』というのだろうな」
「てめぇの強さは周りに迷惑として及んでんだよ! 刺激が欲しいのなら公式の大会に出るとか、色々ハンデを付けて戦うとかあるだろうが! なんで辻斬りみたいな無差別殺傷を行うんだよ!」
「――――それが僕にとっての最善の行為であるが為だ」
小型ナイフを装備すると攻撃力と攻撃速度が下がってしまうが、移動速度自体は低下しない。俺は小型ナイフを両手に持ったままに、ハイドラの周囲を旋回し始める。
「君が想像している以上に僕は現実に飽きているんだ……。ハンデを付けるとか、様々な格闘技の達人と戦うとか、もう何度もやった。やった上で僕の勝利は揺るがなかった」
「……なんだと?」
「分かるか? 最早真っ当な手段では僕は満足出来ない。僕はなんとしてでも、最強という存在を倒してくれる人を見つけたいんだ」
ハイドラはハルバートを構えたままに大きく息を吸って、ゆっくりと吐き出した。ただの深呼吸では無く、自身の気持ちを落ち着ける為の動作だった。
「僕を悪逆と称するのなら、僕を迷惑と称するなら、僕が気に入らないと宣言するのなら、僕を倒すと良い。そういう人間を求めて、僕は《神世界アマデウス》をプレイし始めたんだ。まともに相対出来るプレイヤーの一人もいないんじゃ、拍子抜けにも程があるぞ」
「……なるほどな。てめぇの考えはイマイチ共感出来ないし、なんでそんな思考回路になったのかも分からないけど、一つだけ言っておく事があるぜ」
ジリッとハイドラが刷り込むように移動する。俺との距離を詰めつつ、いつでも直ぐ様動けるように、摺り足で行動する。
そんなハイドラの周囲をひたすらに旋回し続ける。いずれ来るチャンスの時を狙って、ナイフを構えたままに走り続ける。
「自分自身が倒される事を望んでいるのなら感謝しろ。今日この時、お前の願いは果たされる」
会話と走る音のみが戦場を支配する。ムサシ達もこちらの戦況を固唾を呑んで見守り押し黙っている。互いが大きく動き始めるまで静かな時間が流れるつつある。
「なんせ俺がお前をぶっ倒すんだからな。お前の無差別な殺傷行為が気に入らねぇ。お前の自分勝手な理論が気に入らねぇ。お前が存在しているせいで怯えてゲームをしなくちゃいけないプレイヤーがいるっていう事実が気に入らねぇ!」
「ならば僕を倒してみせろ。君の怒りと信念を持ってして、僕のこの身体を打ち砕くんだ」
ハイドラが両足に力を込める。俺が魔法を放つ前に行動し先手を取るつもりなのだろうか。それとも別の思惑を持っているのだろうか。
「怒りは人を強くする。怒りは人から容赦を無くす。わざわざ四方八方に喧嘩を売ってヘイトを溜めたんだ。その怒り、僕に全てぶつけてみせろ…………!!」
俺が考えをまとめる前に。俺が相手の隙を見つける前に。
ドンッッ!! と。
ハイドラは爆発的な加速力を持って此方にへと飛んで来た。
「――――――――!?」
跳躍んだのでは無い。飛翔んだのだ。通常のジャンプではあり得ない程の高度と速度を維持したまま、荒れ狂う竜の如くハルバートを振り回して急襲して来たのだ。
「なっ――――!? なんですかアレ…………!?」
「《竜騎士》の【クラススキル】の一つ、【跳躍強化】の効果だよ! 跳躍力の上昇と空中での攻撃判定に補正が付くスキルだ! けど……!」
「桁外れのスピードとジャンプ力だぞ!? どんだけ職業熟練度を上げたら、あんなジャンプが出来るようになるんだよ!!」
ハイドラは猛然と俺目掛けて襲い掛かって来る。今から回避しても間に合わない――――迎撃するしか無い!
『火炎よ。外敵を貫く一矢と化せ!』
詠唱途中で二本のナイフを放ち、魔法と共に空中にいるハイドラを迎撃する。ナイフの刃と魔法の二段構えでハイドラの体勢を崩させ、追撃として降りて来た所を俺が殴り掛かるという戦法を取るつもりだ。
だが相手は最強の二つ名を持つ騎士。俺の思惑通りにはならない可能性が高いだろう。どんな不測の事態が起きても対応出来るように、身体を浮かせていつでも動けるようにしておく。
――――しかし、それこそが失策だった。
「二度も同じ手が通用すると思うな……!!」
ハイドラは自身目掛けて飛んで来たナイフをハルバートで弾いた。それだけなら別段驚くべき事では無いのだが。
「なにっ!?」
二段目の攻撃たる魔法〈爆裂する一矢〉。俺が覚えた最初の魔法にして要の魔法。
それがあろうことか、俺自身に向かって発射されたのだ。
慌てて防御体勢を取る。一つ目は俺の足元に着弾し、二つ目は庇うように構えたガントレットへと着弾する。爆発による衝撃波によって俺の身体は用意に浮き上がり、両腕は後方へと弾かれた。
そしてハイドラは無防備な俺にへと牙を突き立てる。体勢を崩してしまった俺の腹に向かって、圧倒的な降下速度を保ったままにハルバートを突き刺したのだ。
重さと早さが乗った一撃は一瞬にして俺の体力を削っていく。一気にHPを二割になるまで減らされてしまったのだ。
「ナギさん!!」
マリーの悲鳴が遠くから聞こえてきた。端から見れば俺の腹をハルバートが貫通しているのだろう。痛みは無いが体内に感じる妙な感触から、俺はそう判断せざるを得なかった。
「浅はかな考えだったな、不良騎士! 飛んで来たナイフの先端より魔法が放たれるのならば、その先端を君に向けてしまえば良いだけの話だ! 小手先の技術に頼ってしまった事が君の敗因だ!」
ギリリとハルバートを突き刺したまま、ハイドラは此方を睨み付けて来た。ヘルムの隙間より見える瞳には、苛立ちと哀しみの感情が見て取れた。
「君の怒りがこんなものとはな! 君ならばもっと僕を楽しませてくれるような戦いを繰り広げてくれると思っていたんだが……。所詮はこの程度なのか?」
ハイドラは勝利を確信しているようだ。これだけHPに差が出て、俺の新戦法その一を打ち破った事で、最早俺に逆転の目は無いと思っているようだ。
確かにかなり厳しい状況ではある。たった一つのミスにより、魔法攻撃は無効化されてしまい致命的なダメージを受けてしまった。ハイドラのHPはまだまだ残っているのに、俺は既に死に体と化してしまっている。
誰の目から見ても決定的な差だと分かる。もうハイドラの勝利は決まってしまったのだと、諦感と共に受け入れてしまうだろう。
「…………ま、ナギは頑張ったよ。あの化け物のHPを四割も削ったんだ。ぶっちゃけ自慢しても良いレベルだと思うけど?」
ミケネコのそんな声が聞こえて来た。少なくともミケネコは既に俺が敗北したも同然と思っているようである。
チラリと観戦している仲間達の方を見た。ミケネコが少し悲しそうな、けれど達観したような表情をしているのが分かる。
だが――――ムサシとマリーは違う。どこか焦燥した表情を浮かべているが、それでも瞳にはまだ輝きを持っていた。
ハイドラの強さに屈服した眼では無い。俺の敗北を感じて悲しんでいるような眼では無い。
未だに俺の勝利を信じている眼の輝きであった。まだ勝負は着いていない、まだ戦いは続いていると信じている眼であった。
その通りだと、俺は心の中で頷いた。
HPが少なくなったとしても、致命的なダメージを負ったとしても。
まだ身体が動き、まだ戦えるのであれば、最期までこの拳を振るい続けるつもりだ。決着はまだ付いてはいないぞ……!!
「格好付けている所を悪いが――――」
ハイドラは目の前に居る。ハルバートを俺に突き刺して、武器貫通による継続ダメージを与え続けている。このまま俺のHPを削り切る為に、武器を突き刺したままで留まり続けているのだ。
だが、そこは俺の間合いだ。俺の拳が届く範囲だ。
「まだ余裕をかますのは早いんだよ!」
ハイドラの顔面に向けて渾身の右ストレートを放つ。しかしハイドラは首を傾げる事で容易く攻撃を回避してみせた。
「僕にそんな単調な攻撃が通用すると思ったのか?」
「じゃなけりゃ攻撃なんてしねぇよ!」
だがハイドラに回避されるのは想定の範囲内だ。俺の本当の攻撃はここからだ。
右手の手首と指をガチャガチャと動かす。するとガントレットの部分が変形し始める。
肩を覆う部分から手の先まで鎧が流動するように動き、小型ナイフを手の内に出現させた時と同じように、とある武器をその手に持つ。
「っ!? その武器は――――!?」
突然近距離に出現した凶器の存在に気付いて、目を見開き驚くハイドラ。
俺は相手に回避行動を取られる前に、力の限り握り締めた武器を横薙ぎに振るった。ハイドラは反則的な速度で凶刃から逃れようと身を引いたが、流石にハルバートを引き抜いてから回避行動に移るのが遅すぎたようで、見事にハイドラの脇腹に刃は突き刺さった。
「ぐっ…………!?」
「まだだぁ!!」
ハイドラがよろめいた隙に今度は左手の機構を動かして、第二の隠し装備を左手の内に出現させる。そして大きく一歩踏み出して、左手の装備を使用した【必殺技】を発動させる。
「【シールド・ブラスト】!!」
右手には両刃剣を持ち。
左手にはスモールシールドを構え。
《騎士型》の代表的な【必殺技】である【シールド・ブラスト】をハイドラの顔面に叩き込んだ。
ボゴォッッ!!! と。
凄まじい炸裂音と共にハイドラの身体が大きく吹き飛ぶ。十数メートルは宙を舞って飛んでいき、転がりながらも体勢を立て直し瞬時に立ち上がった。
ハイドラのHPは今の一撃でやっと半分を切った所である。しかし、それでもあの状況で見事なカウンターを喰らわせる事が出来たのは、ハイドラに精神的なダメージを与える事に成功しただろう。
ハイドラは頭を振って立ち眩みを直すと、防御体勢を取りながら此方を見据えた。そして驚きに満ちた様子で声を上げたのだ。
「小型ナイフだけでは無く、そのガントレットは両刃剣と盾に変形するのか……! 一瞬で間合いを変化させてくるとは、つくづく予想の上を行ってくれるな……!」
「てめぇこそ、俺の最大の【必殺技】を喰らっといてあっさり復帰してんじゃねぇよ! 数秒の足止めにしかならなかったじゃねぇか!」
【シールド・ブラスト】は俺が覚えている技の中で、一番の威力を誇る【必殺技】だ。思いきり盾で殴り付けるという単純な技だが、ヒットした場所が爆発的に炸裂し強大な衝撃波を生み出して、相手を大きく吹き飛ばす事が出来るのだ。
切り札の一つとして隠し持っていた【必殺技】なのだが、高威力の代償としてMPの消費が激しいのが弱点である。この技の発動によりMPかが一気に減少してしまい、俺は後一発しか魔法を放てなくなってしまった。
「しかし、両刃剣か。最初に戦った時もその武器だったな。素手より間合いが広くなったは良いが、君の腕では僕のハルバートを捌き切る事は不可能だと思うが?」
「……かもな。だから、こうする」
俺は両刃剣とスモールシールドをくるりと回転させて、両腕にそれぞれ添えた。そして腕を回転させると、再び変形してガントレットにへと戻った。
「……時に両刃剣、時に徒手空拳に変化するバトルスタイル。成る程、それが君の新たな戦法というわけか」
「新たな戦法その二な! そこんとこ、間違えないように!」
ハイドラの言う通り、武器を一瞬で変形させて持ち替えて間合いを変化させて戦うのが、俺達が考え抜いた戦法その二だ。武器を入れ替えて相手を攪乱させたり、両刃剣や盾の【必殺技】を使用出来る為の戦い方である。
本来ならば隙を見出だしたら【シールド・ブラスト】を発動して、更にHP差を広げる為に使うつもりだったのだが、結局の所は仕切り直し技としてしか使う事が出来なかった。しかも、HPも大きく減らされてしまった。
「突然の変形には驚いたが、それ以上の手品はもう無いのだろう? いくらギミックを大量に仕掛ける事が出来る鎧とは言え、限度はあるはずだ。ナイフが数本と両刃剣と盾……それだけ積み込めば、後は終いだろう」
「…………」
悔しいが、それもハイドラの言った通りだ。俺の〈白水晶の鎧〉のギミックは、これ以上はもう無い。武器や鎧による不意討ちはもう出来ないのだ。後は己の技量と作戦のみで戦うしかない。
一応、新戦法は後もう一つ残っているが、それも使い所が難しい。この勝負中に使用するには、少し消耗し過ぎてしまった。使えない事は無いがハイドラの虚を突くには不足するだろう。
「君は相当に強い。その戦闘センスと技量があれば僕の首を獲るのも不可能では無いだろう」
ハイドラは防御体勢を取ったままに、ジリジリと近付いて来る。摺り足で徐々に間合いを詰めながら、俺の残りのHPを奪い取らんと迫って来る。
「さぁ、ここからが本当の勝負だ。僕を乗り越えてみせろ。僕という悪逆が気に入らないのなら、僕を討ち取ってみせろ……!!」
「ちっ…………!」
俺の残りHPは僅か。相手は俺の倍のHPを残している。
この絶望的な状況下で最強の竜騎士を倒す為には、此方も腹を括って挑まねばならない。分の悪い賭けに身を投じなければ、ハイドラに刃を届かせる事は出来ないだろう。
チャンスは恐らく一度切り。
ハイドラの防御能力から考えて、相当な威力の一撃を加えなければハイドラに隙を突く事は不可能。
小型ナイフはまだ四本残っているが、魔法は一回しか放つ事が出来ない。
【必殺技】は両刃剣の【クロス・ブレイド】ならば一回放つ事が出来るが、あれは隙が大きい。放つ前に潰されてしまうか、技を回避された後に反撃されてしまう可能性が高い。
さて、この条件の元にハイドラに勝つ為には、如何なる手段を用意して、如何なる勝負を仕掛けるべきか。
ハイドラの接近に身構えながら、俺は最後の攻防に向けて策を講じ続けた――――。
次回もハイドラ戦です。まだナギ視点のままです。自分で設定しておきながらアレですが、割りとハイドラもナギもしぶといキャラですので、まだ続くのです。




