第十九話 竜騎士ハイドラ・その二
今回はムサシの視点で話が進みます。でも説明ばっかりで戦闘自体はあんまり進んでないです……。
そんなこんなで第十九話です。誤字・脱字がございましたら報告をお願いします。
「おっと……マリーちゃん! 先に着いていたのか」
「……あっ……ムサシさん……。ハイドラさんとナギさんとの戦いはまだ始まったばかりですよ……」
ナギからハイドラを発見したという報告を受けて走り、オレは目的地である広場に到着した。
既に広場にはマリーちゃん……と見知らぬ女性プレイヤーが到着しており二人の戦いを見守っていた。というか、この女の子は誰だ。
オレは視界の端に女の子の姿を認識しつつ、マリーちゃんに現在の状況を訊ねた。
「二人の戦いはどうなっている? どっちがダメージを先に与えた?」
「あ、いえ……まだ、どちらもダメージらしいダメージは受けても与えてもいません……」
マリーちゃんの言葉を受けて戦場を見る。
ナギはインファイトで攻めているようで、ハイドラに接近して拳を振るっている。時には蹴りや掴み技も織り混ぜて打撃を叩き込もうとしているようで、圧倒的な手数の多さでハイドラを撹乱させているようだ。
対してハイドラはハルバートを巧みに操りナギの攻撃を全て弾いている。石突きや刃の腹で攻撃を受け止めたり、ナギの足元や頭を払い除けたりして、反撃する機会を伺っているようだった。
「ふむふむ。アレだねー。ナギはハルバートの攻撃範囲よりも更に内側に入り込んで、とにかく攻めて攻めて攻めまくって相手の集中切れを狙っているのかにゃ? 基本スタミナという概念が無い《神世界アマデウス》だけど、精神的な疲労はまた別の話だからねー」
二人の攻防を見て、女性プレイヤーが分かりやすく解説してくれた。
事実、ナギの狙いはその通りである。ハルバートという重く長い武器を操る相手に対して、中途半端な長さの両刃剣は使うのは不利として、徒手空拳にへとバトルスタイルを移行したのだ。リアルでも素手喧嘩を大量にしていたナギならば、そちらの戦い方に切り替えればハイドラとも渡り合えるのである。
……もっとも、だからといってナギが両刃剣や大楯による戦い方を捨てたというわけでもないのだが。
「マリーちゃん。この子誰? 君の友達? ナギのアレ?」
「私も知らないプレイヤーですよ……。ここに着いた時には既にいました……。後、ナギさんのアレかどうかは分かりません……」
「……なんかオレ変な誤解受けてない? ていうか、アレって何よ?」
「アレはアレだよ。あのアレを君のソレにそぉいしてフィーバーする仲のアレ」
「えっ……!? あ、貴女はナギさんとそういう仲だったんですか……!? てっきりフレンドさんか何かだと思っていたのですが……!?」
「フレンドっちゃフレンドだろ? それも友達だね!」
「うん、全力で否定するよ!? 初対面のロリ美少女相手にぶっこんで来たね!? 流石はナギのフレンド、キャラが濃い!」
少女はそう言うが、オレからしてみれば『謎のロリ美少女(一人称オレ)』というのも相当濃いキャラ付けだと思うのだが。リアルでもこんな性格なんだろうか。
「ま、冷静に考えて……君はナギが言っていたミケネコってプレイヤーだろ? 〈魔法訓練施設〉で出会ったっていう《盗賊型》の女の子」
「…………なんだ、冗談でしたか……。もう、本気で焦りましたよ……」
「アハハ。正解だよ。清く正しい美少女盗賊のミケネコとは、そうオレの事さ!」
ナギが言っていた不思議な少女ミケネコ。確かに実際に会ってみると胡散臭いというか、怪しいというか、掴み所の無い雲というか、自由気ままな猫のような印象を受ける。
「それで? なんで君はここにいるんだ?」
「なんでって……偶然かな? ハイドラが〈アラバ〉をソロで倒すのを見ていて、その後にナギと再会して……二人のPVPが始まったから観戦しようと思ってさ。つまりは野次馬だよ、野次馬」
「……偶然、か」
ハイドラが〈アラバ〉をソロで倒したという話は俄に信じがたいが、それよりもミケネコがここに居た理由も少し怪しいものだ。嘘はついていないだろうが、重要な真実を隠しているようにも思える。確信は無いのではあるが……。
ミケネコを問い詰めたいところであるが、今はナギとハイドラのPVPを見届けるのを優先しなければならない。彼女とじっくり言葉を交わすのは、この戦いが終わった後にしよう。
「……あっ!」
マリーが悲鳴染みた声を上げる。同時に戦場の方向より甲高い金属音も聞こえてきた。
確認すると両者の距離が大きく離れている。ハイドラがハルバートを突き出した体勢をとっている事から推測するに、ハイドラが強撃を放ってナギを大きく吹き飛ばしたと見るべきか。ナギは両手をクロスして攻撃をガードしたようでダメージは受けていない。
ハイドラはハルバートを降ろして構えを解いた。そして顎に手を当てて「ふむ」と声を出す。
「…………成る程。そのガントレットは――――というより、鎧自体が武器と防具の両方の性質を合わせ持つ装備なんだな。武器にしては防御性能が高過ぎるし、防具にしては攻撃力が高いとは思っていたが、一体化しているというのであれば納得出来る」
「っ…………!」
三分程の攻防で自身の装備の性質を見抜かれてしまったナギは言葉を詰まらせてしまう。フルフェイスのヘルムに隠れて見えないが、その表情は苦々しく歪んでいるだろう。
「それは【装備重量制限】が二種類設定されているはずだ。武器としての重量と、防具としての重量。攻防一体の装備であるのであれば、そのガントレット以外には武器を持っている事も無いだろう。他に武器を装備しているにしては、君の動きは些か軽快過ぎるからな」
(アイツ……もうそこまで見抜いていんのかよ!?)
ハイドラの言う通り、ナギの新装備である〈白水晶の鎧〉を軸にした一式は、武器と防具の両方の性質を持つ装備なのだ。剣や盾を構えずにガントレット――――腕の装備のみで攻撃も防御もこなす事が出来る装備である。
攻防一体といえば聞こえが良いが、勿論良い事ばかりでは無い。この装備一式だけで【装備重量制限】のペナルティ数値が二種類埋まってしまうのだ。剣や盾を装備していなくても制限ギリギリの値なのだから、これ以上に装備品を装着する事は出来ないのだ。
こうした全身鎧一式のみで攻撃も防御も出来る装備を《攻守装甲》というのであるが、反面手に持つ武具を装備出来ないので、どうしても己の身体のみで戦いに挑まねばならないというデメリットも抱えてしまっている装備でもあるのだ。
「となれば話は早い。ようは懐に入り込ませなければ良いだけだ。こっちは大長槍で君は徒手空拳――――どちらにリーチの有利があるかは明白だろう?」
そう言ってハイドラは深く腰を落としてハルバートを短く持った。小回りが効く体勢に移行して、迎撃を持ってしてナギを近付けさせまいとしているのだ。
「さて。君はこの窮地をどう乗り越える? 君の新たな力はこんな小賢しい戦法のみで完結する程に矮小では無いだろう。僕に見せてくれ……!」
ハイドラはそのまま動かなくなった。自分から仕掛ける事はせずにナギの動きを見定めようとしているのだろう。それが現状取れる最善の策であり、同時にハイドラの余裕の現れでもある。
「ありゃりゃりゃりゃ…………マズイんじゃない? ハイドラの武器捌きは超一流だ。完全に迎撃体勢を取られちゃったら、懐に入り込む前になます切りにされて終わりだよ」
「……確かに少し苦しい展開ですね……」
ハルバートのリーチは長大である。どれだけ素早く懐に飛び込もうとしても、素手の攻撃範囲にハイドラの身体が入るより先に、絶対にハルバートの攻撃範囲に飛び込む羽目になる。
ならばハルバートの攻撃を捌いて踏み込めば――――と考えるが、それも不可能だろう。ハイドラとてハルバートが捌かれれば一歩身を引くだろうし、聞けばハイドラには投げ技もあるという。ハルバートを捌いた後に投げ技に対応するなんて、いくらナギでも難しいだろう。
手を届く範囲に自身の肉体を入り込ませるには、ハイドラに大きな隙を作らせなければならない。出来るのであればハルバートを振り戻せない程に、弾き飛ばすか地面に食い込ませるか――――。
「……しゃあねぇな」
と、ここでナギがファイティングポーズを解いてボヤいた。
自身の前方10メートル付近で油断無く武器を構え続けているハイドラを見据え、ガチャガチャとガントレットの指を鳴らす。
「まだ戦いは始まったばかりだが、新戦法その一をお披露目するとしますか。てめぇ相手に温存なんて考えていたら、文字通り足元を掬われて即死しそうだしな」
新戦法その一を早速使うつもりなのか。
確かにずるずるとダメージを受けてから使用するよりかは、早目に使ってハイドラに大きなダメージを与えておきたいところだ。HPが相手よりも減っているという状態は精神的に圧迫感を与える事が出来るので、ハイドラのミスを誘発させる布石になるかも知れない。
温存するよりか盛大に使って高いリターンを得る。失敗した時の事を考えればハイリスクではあるが、やるだけの価値は十分にあるだろう。
「ん~? ナギは何をするつもりなのかな?」
「……詳しくは話せませんが、あえて表現するのなら……」
内容を知らないミケネコは首を傾げて疑問符を浮かべている。対してマリーちゃんは静かに微笑みながら、はっきりと答えた。
「――――ナギさん流のトンデモ攻撃です」
「なにソレ超気になる!」「何だそれ、凄く気になる!」
「いや、ハイドラもムサシ達の会話に聞き耳立ててんのかよ!?」
何故かハイドラも反応した。なんで君もこっちの話に交ざってくるんですかね。
「良いからこっちに集中しとけ! じゃなきゃその首、隙付いてぶん盗ってやるぜ!」
もちろんナギはそんなハイドラに対して容赦はしない。俺達に意識を向けた隙を付いて軽く腕を振った。
瞬間、ジャキンッ!! という音と共にナギの掌に小型のナイフが出現した。左右に一本ずつ、二本のナイフを構えてハイドラに向かって走り出したのだ。
「なっ――――武器だと!? 馬鹿な、小型とは言え新たに武器を装備なんてしたら……!」
「【装備重量制限】のペナルティが発生するよ!? 武器の場合のペナルティは攻撃力ダウンと攻撃速度の鈍化!! 致命的なペナルティを背負う事になる!」
ハイドラとミケネコが同時に驚くが、二人の驚愕は正しいものだ。既に〈白水晶の鎧〉の重量を背負っているナギが武器を装備してしまうと、ミケネコの言った通りのペナルティが発生してしまい、攻撃面において圧倒的な負債が発生してしまう。事実、今の状態のナギはペナルティによって大幅に攻撃力がダウンしてしまっている。
だが、それはこのまま装備し続けた場合の話だ。ハイドラに接近し終わる前にナイフを手放してしまえば、ペナルティはもちろん消え失せる。
そして手放すタイミングと方法こそが、ナギの新戦法の要となる!
「いや、違う。今の武器の出現の仕方、小型という武器の特徴からして――――」
だがハイドラの頭の回転も早かった。ナギが行動を移し終えるよりも先に、これから起こる事について考えを巡らせて思い付いたのだ。
「――――投擲による牽制か!」
「――――――――――――っ!!」
ナイフによって先んじて攻撃し、防ぐか回避するかの行動を取った合間を狙って、武器が手から離れた事によりペナルティから解放された拳を最速で叩き込む。
ハイドラが思い至ったのはそういう戦法だろう。そうしてハイドラは左手に装着したスモールシールドを構えた。小盾でナイフを防ぐつもりなのだろう。
だが――――その考え、一歩遠い。ナギの繰り出す攻撃がただの牽制で終わる訳がない。
「――――『火炎よ。外敵を貫く――――』」
「なっ…………!?」
投擲モーション入ったナギが始めたのは魔法の詠唱。
紡ぎ出した言霊より放たれるのは、大抵の魔法使いが初期に覚えるという初級攻撃魔法。
「――――『一矢と化せ!』」
そしてナギは詠唱を終えると同時に。
ハイドラに向かってナイフを投擲した。
「魔法を使用したから投げた、だと!?」
ハイドラがスモールシールドでナイフを受け止める。と同時にナイフの先端から放たれた魔法がスモールシールドに直撃してハイドラの左腕を弾いた。
二本目のナイフは辛うじてハルバートの柄で弾いたが、魔法の射出自体は防ぐ事が出来ず、ナイフの先端部より魔法が地面に向かって放たれ、衝撃波によりハイドラの身体が大きく崩れた。
「オオオオオオオオオオオオッッ!!!」
そして走り込んできたナギが頭を下げてハイドラの懐に入り込んだ。
そのままの勢いを保ったままに握り拳を作って、ハイドラの腹にへと渾身のストレートを叩き込んだ。
「ガッ……!!」
「まだまだぁ!!!」
一度攻撃したのであれば、途切れさせてはいけない。反撃の隙も与えずに殴りに殴りまくるのだ。
顎に一撃与えて衝撃により視界を揺らし、脇腹に一撃与えて体勢を更に崩し、鳩尾に一撃与えて後退させ、顔面に一撃与えて反撃を許さない。
あまり見たことが無かったが、中々にえげつない攻撃の嵐だ。あれがナギが中学時代に鍛え上げた喧嘩殺法か……!
「だらっしゃあっ!!」
ナギは深く踏み込んでハイドラに追撃を仕掛けようとした。せっかく生まれたチャンスを強引にでも継続させて、ハイドラに少しでもダメージを与えておこうとしているのだろう。
だが、ハイドラも黙って攻撃を受け続けるだけで終わる男では無い。
「――――攻めが強引過ぎる。隙だらけだ……!」
パシリッと。
ナギのパンチをあっさりと片手で受け止めた。更に加えてハルバートを地面に刺して、それを支えにして大上段の蹴りを放ち、ナギの頭を撃ち抜いた。
「グッ……!」
蹴り飛ばされて地面に転がるナギ。ハイドラはハルバートを地面から抜き放ち、走り出してナギを追撃する。
ナギを貫かんとハルバートによる刺突を連続で繰り出す。ナギは両腕を駆使して防ぎながら素早く立ち上がり、距離を稼いでハルバートの攻撃圏内より逃れた。それでも数発は食らっていたようで、HPがしっかりと減らされていたが。
再び距離を置いて様子を伺う両者。一度戦いが区切られた事により、俺達は知らずの内に止めていた息を大きく吐き出して一息ついた。
「……あ~~~ッ! まさかあの連続パンチを防いだ挙げ句、反撃する余力があったなんてな……。ハイドラ、マジぱねぇ」
「……けどダメージが結構与える事が出来ました。これでナギさんとのHPが広がり……。この差は大きいですよ……!」
確かにハイドラも結構なダメージを受けている。今の攻防でのダメージ量を比較したら、ハイドラは全体の三割強、ナギは全体の一割程と、かなりの差がついた。普通のPVPならば中々に覆し難い差であろう。
しかし、ハイドラにはまだ余力があり、ナギは必殺技を使ってしまっての結果だ。初見の効果とハイドラの受け身(様子見)の体勢により見事に成功した戦法であるが、恐らくは二度も通じないだろう。次にハイドラの懐に入り込むには別の手段を使わなければならなくなるだろう。
「い、今のナギの魔法の使い方……オレが〈魔法訓練施設〉で見た使い方に似てる! あの時は両刃剣をぶん投げて、的に突き刺していたけど……」
「あぁ、そうだ。ナギが〈魔法訓練施設〉でそのコツを掴み、実戦に使えるようにリニューアルしたのが、小型ナイフの投擲による的当てだ」
ミケネコは一度ナギが武器をぶん投げて、無理矢理的に魔法を的に突き刺してぶち当てる――――という荒業を用いているところを見た事があるだろうが、それでも度肝を抜いたようだった。
魔法を使用するには《詠唱》を行わなければならない。詠唱を開始して魔法の起動し、詠唱を終える事で魔法は行使される。
魔法が射出、行使されるのは手に持った武器の先端、素手ならば掌からだ。今のナギならば素手なので右手の掌から魔法が射出される事になる。
詠唱と射出角度の調整。ナギは両方を同時にこなすのが苦手だったのか、中々狙った位置に魔法を当てる事が出来ずに苦難していたらしい。
そこでナギが思い付いたのが、武器を持ったままに魔法の詠唱を開始して、詠唱途中で武器を手放した場合はどのように作用するのかであった。
魔法の起動は詠唱の開始と同一である。ならば、ひょっとしたら射出箇所の判断の判定も、魔法の起動時に決定されているのでは無いかと思ったわけだ。
もちろん魔法の詠唱が終わった時に射出箇所が決定される可能性もあったが、とりあえずやるだけやってみようと思って、詠唱途中で武器をぶん投げて見たわけである。
結果としては――――武器が的に突き刺さってから詠唱を終えると、的が内部より爆発四散したという。即ち、突き刺した武器の先端より魔法が射出されたわけだ。
この実験により、詠唱を開始した時点で魔法の射出箇所は『手にしている武器の先端』と固定されており、詠唱途中で手放したとしても魔法の射出箇所は変更されない――――という事実が判明した。
これにより、遠距離の的に魔法という未知の現象をぶつけようとするよりは、直接手に持っている武器を投げた方が的に当たりやすい――――と思ったナギは、この方法で魔法を行使しようと思い付いたわけである。
魔法の行使を武器の投擲と同時に行うとすれば、後は細かな調整作業をするのみだ。持ちやすく投げる事を前提とした武器を選び、投擲による武器のロストを覚悟の上で魔法を行使する――――この方法を実戦で活用する為に、ナギは職業熟練度上げと平行して投げナイフの練習を行ったのだ。
投げナイフを魔法の射出箇所として投擲し、ナイフの攻撃と魔法の攻撃の二段構えによる連撃で確実に相手にダメージを与える。普通に魔法を使うよりかは手間が掛かるが、その分効果は大きくなったのだ。
ゲームのシステム外の技巧による魔法の変則的な行使方法――――オレはこれを【スローイング・マジック】と呼ぶことにした。多分、流行らない。
「…………というわけだ。あの鎧にもまだまだギミックがあって、鎧の至る所が特定の動作に反応して、小型ナイフに変形して手の内に移動するようになっている。鎧の面積が減少する分、当然防御力も減少しちまうが……」
「それにしたって装備動作もほとんど無しでナイフを装備出来るのは強いなぁ。【装備重量制限】も手から離れた時点で作用しなくなるし、一瞬だけ装備して直ぐに投げる分には問題無いのか……」
《白水晶の鎧》は合計で八本の小型ナイフが収用されている。ナギのMPから考えて、丁度行使可能な魔法の回数と同じなのである。今二本使用したので、残り六回は同じ攻撃をする事が可能なのだ。
「武器を投げた時も驚いたけどさ。ナギはどうにも真っ当に戦うのが嫌いなんだねぇ。普通のプレイヤーだったら魔法が的に当たるようになるまで訓練するか、そもそも魔法を使うのを諦めると思うんだけど」
「真っ当なプレイヤーじゃねぇからな、アイツ」
アバターの作成に失敗したり、デスする事前提で蟻の大群の中に突っ込んでいくような奴だ。思考回路が常人とは少しズレているのだろう。もちろん、それは良い意味でズレているという事だが。
「……とにかく、これでハイドラさんを驚かせる事が出来ました。遠距離攻撃も飛んで来るとハイドラさんが理解したのであれば、もう受け身の戦法を使って来る事も無いでしょう……」
「そうだな。それがナギにとって吉となるか凶となるか……」
マリーちゃんの言う通りである。距離を詰める為の手段がある以上、ハイドラは待ちに徹して戦う事が出来ない。動かなければ再びナイフと魔法が飛んできて、一方的にダメージを受ける事になるからだ。
様子見に徹して戦いを楽しんでいたハイドラが動き出したら、果たしてどうなるのか。ナギはそれでも勝つ事が出来るのか、成す術無く敗北するのか。
俺達がじっと二人が動き出すのを待っていると、おもむろにハイドラが口を開いた。
「……やはり君は面白いな。武器を代償として魔法を使うなんて……。というより、随分と凝った作りの鎧だな。そこまで自由に装備品を改造して作成出来るものなのか?」
「やろうと思えば誰でも出来るぜ。作成したのはNPCの鍛冶屋だからな。俺の財布の中身が空っぽになるぐらいの料金は取られたがな!」
通常の鎧の値段にプラスしていくつかの武器の代金も上乗せされているのだから当然だろう。《白水晶の鎧》一つで武器数個分と防具数個分の代金を使っているのだ。せっかく稼いだ資金が一瞬で溶けて消える様を見ていたら、他人事であっても悲しい気持ちになるものだ。
「《神世界アマデウス》の自由度の高さを舐めていた。が、所詮は初見殺しの小手先の技術でしか無い。その程度の装備で僕に敵うと本気で思っているわけでは無いだろう?」
「当然。新戦法はまだまだある。精々気を張って怯えていろ。直ぐに残りのHPも削りとってやる!」
「馬鹿を言うなよ、不良騎士……! 戦いは始まったばかりだ……! まだまだ付き合ってもらうぞ!」
ハイドラが駆け出してナギにへと直進した。今度はハイドラの方から仕掛けた。
戦いはまだ始まったばかり。ナギの攻撃の次はハイドラが攻撃するターンだ。ここを凌がなくてはナギが勝利を掴む事など夢のまた夢である。
(踏ん張り所だぞ、ナギ……!)
戦局は移り変わる。第一局はナギが手にしたが、第二局はどちらが手にするのか分からない。俺達に出来るのは見守る事だけだ。
俺もマリーちゃんも固唾を呑んで、ナギが勝利するのを祈るのであった。
まだ戦いは続きます。次はナギの視点になるかな。




