第二十四話 二人の少女
大変長らくお待たせしました。第二章の一話です(通算二十四話目)。
誤字、脱字がございましたら、報告をお願いします。
始まりの幕は既に上がった。
騎士は魔法使いと出逢い、巨大なる魔性を討伐し、死力を尽くした戦いの果てに”最強“の二つ名を掲げる竜騎士すらも打ち倒した。
第一章は終わりを告げ、第二の幕を開ける。
次に騎士が出会いしは、未熟でありながらも熱意と誠意を持ってして頂きに至らんとする、とある二人の少女達――――。
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「しゃあ!! 三日振りの《神世界アマデウス》だ! 今日はとことん遊ぶぜ~!」
八月もそろそろ半ばに差し掛かろうとするある日。
あるいはハイドラとの戦いを終えてから数日後。
現実の方で夏休みの課題とか、家の用事とか、友達との用事とか、色々な事が重なり時間が取れず、三日間も《神世界アマデウス》にログインが出来なかった。どうにも忙しくてゲームをしている暇が無かったのだ。
なんとか雑事を全て片付けて、ようやく時間にも余裕が生まれ、待ちに待った一日中フリーな日がやってきたのだ。嬉しさの余り、俺は朝早くから速攻でログインをして、久しぶりにVRの世界に足を踏み入れたのである。
「つってもムサシもマリーもまだログインしてねぇな……。流石に朝早過ぎたか」
最初の街の噴水広場に降り立った俺は、フレンドリストを開いてムサシやマリーがログインしているのか確認した。しかし、今は朝の七時。事前に呼び掛けていたり約束していた訳では無いし、二人ともゲームにはログインしていないようだ。
「どうするかな……。一人でダンジョン攻略するのは難しいし、なんか適当なクエストでもこなしてみるか?」
ハイドラとの戦いを終えた次の日に、俺はムサシやマリーと共に第二のダンジョンの一つである〈アーミーアント・フォートレス〉を攻略し、ダンジョンボスである〈断刃蟻司令クライアント〉を撃破した。これにより俺達は次なるダンジョン――――第三のダンジョンに挑む権利を得たのだ。
しかし、第三のダンジョンに一人で挑むには今の俺ではレベルが足りない。〈イースト・マッシュルーム・フォレスト〉の時のように、足を踏み入れて直ぐにモンスターに囲まれて終わりであろう。
だから俺一人しかログインしていない現状では、第三のダンジョンに赴くのは自殺行為でしかないのだ。よってダンジョン攻略に行くのは止めておいた方が良いだろう。
「クエスト……フィールドでレベル上げするついでに……。いや、それとも新しい【マイスキル】を習得する為のクエストをしようかな?」
さて。では、今日は何をして過ごそうか。
俺はぼんやりと考えながら最初の街を歩く事にした。目的地は〈クレーテー城〉ではあるが、道中に何かしら面白い物でもあったら、そっちに食い付くつもりである。何もなかったら、大人しく討伐クエストを受けてレベル上げに行こう。
のんびりと最初の街を歩いていく。朝の澄んだ空気を全身で浴びながら、空の美しい青色を楽しみ、まだ静かな街の様子を穏やかに観察する。最近忙しかったので、こうして平和な時間を過ごすのも悪く無いと思ってしまうのだ。
そうしていると、不意に――――。
「「ねぇ、そこのフルアーマーのお兄さん!」」
「えっ? 俺?」
綺麗にハモった声に呼び止められた。
首を巡らせて周囲を見回してみると、声の主たちは直ぐに発見出来た。道の端に露店商のように武器やら防具やらを並べている、良く似通った顔立ちをした女の子二人が俺を呼び止めたようだ。
「声を掛けてきたのはアンタらか。どうやらNPCじゃなくてプレイヤーのようだが……俺に何か用か?」
「うん。私達、ここで装備品を販売してるのネ」
「良かったら買っていかなイ? NPCが売っている商品よりも性能は高いヨ! その分、お金はしっかり頂くけどネ」
「NPCのより性能の高い装備品だと…………?」
興味が沸いたので二人が並べている商品を見ていく事にした。買うかどうかは別だが、どうせ見るだけならタダなのだ。二人の言葉も気になるので装備品の性能を確認してみる。
地面に広げた布の上に並べてられている商品の中から短剣を手にする。アイテムのステータスを確認してみれば、二人の言葉が真実を言っている事が分かった。
「なるほどな。確かに攻撃力が店売りの――――少なくとも最初の街に売っている安物の短剣よりは高いな。しかも、重量も攻撃力の割りには軽い……良い品だ」
「でしょー! この私が丹精込めて作った物なんだから当然よネ!」
「ハルちゃんは【鍛冶の担い手】のスキルをサービス開始時から、ずっっっっと上げてたんだヨ。多分、現状じゃあ最高レベルの鍛冶の腕前になってると思うヨ」
「そうそう! そんな私が作った武器や防具の数々! βプレイヤーの鍛冶職人にも引け取らない出来だと自負しているワ!」
どうやらこの装備品の数々は、俺の目の前でエヘンと胸を張っている少女――――ハルというプレイヤーが作成した物のようである。俗に言う、プレイヤーメイドと呼ばれる装備品である。
「そして私の隣にいるマルちゃんこそが、現状最高レベルの【彩飾の担い手】の持ち主! アクセサリー製作やオシャレ装備作成の達人なのヨ!」
「徹夜でスキル上げを頑張りましタ」
「アンタはアクセサリー担当か」
オシャレ装備という単語は初耳だが、とにかくアクセサリーを作っているのが、俺の目の前で無表情でピースをしている少女――――マルという事らしい。
「私達は二人で一つ! 全ての装備品を作成し、改造し、販売するのが、私達のプレイスタイルヨ!」
「武器も防具も何でもござれ。なんなら【アイテム素材】を持って来てくれれば、それを使って装備品を作ってあげるヨ」
「マジでNPCの鍛冶屋と同じような事が出来るんだな」
この二人のプレイヤーは所謂『生産職プレイヤー』と呼ばれる存在なのだろう。剣や魔法を使って冒険をするタイプのプレイヤーでは無く、アイテムなどを作成して他人をサポートするタイプのプレイスタイルの人々を指す名称だ。
MMORPGでは戦ったり冒険したりするだけでは無く、こうして裏方に徹したり、あるいは世界観に完全に溶け込んで過ごすプレイヤーも存在すると聞く。現実世界と大した差異が無いVR世界では、こうして本物の職人に成りきりたいと思うプレイヤーもいるのだろう。
「どうどうどう!? フルアーマーのお兄さんに似合う装備品も作れるヨ! だから是非とも、私達の鍛冶屋をご贔屓にして欲しいのネ!」
「なんなら記念すべきお客様第一号として、いくつかの商品の代金を割引きしてあげるヨ? だから是非とも、私達の店でこれからもお買い物をして欲しいのネ」
二人の少女はキラキラした瞳で俺を見てくる。俺が商品を買ってくれる事に期待しているのだろう。しかし――――。
「うーん。俺の鎧は《攻防一体型》だから、今並べられている商品を買っても意味無いんだよなぁ。アンタ達はこんな鎧を作る事は出来るのか?」
俺は鎧のギミックを発動させて、その手の平に両刃剣を出現させた。
俺の鎧はその他にも武器や盾にも変形させる事が出来るギミックを搭載しており、通常の鎧や武器を購入したとしても装備出来ないのだ(いや、正確には装備は出来るが【装備重量制限】に引っ掛かってしまう)。なので、現状は彼女らの商品を購入する事は難しいと判断せざる得ない。
「うえ!? こ、《攻防一体型》かぁ……。いや、スキルのレベル的には余裕なんだけどネ……」
「あれは色々と手間が掛かる上に作成難易度が高いんだよネ。いや、私達なら余裕で作れるけどネ」
「余裕で作れるのなら問題無いだろ? 今は【アイテム素材】の持ち合わせが無いから無理だけど、《攻防一体型》の装備が作れるのならアンタらの店を利用するのも考えるからよ」
ハイドラと戦う為に装備品を一新したばかりなので、今の俺にはお金も素材も残っていない。が、もっと強い装備を作れるというのならば、直ぐにでも稼ぎに行って必要なものを揃えに行くつもりである。
せっかくこうして生産職のプレイヤーに出会えたのだ。これからも冒険を続けていくのであれば、プレイヤーメイドの強力な装備品は必要となるのは明白であるし、出来ればこの縁は大切にしていきたいものだ。
「ホント!? 本当に《攻防一体型》の装備を作れたら、私達のお店を贔屓にしてくれる!?」
「いや、贔屓にするかは……まぁ、そりゃアンタらが本当に腕の良い職人なら、俺の方から作ってくれって頼みたいのは確かではあるが……」
今並べられている商品の数々を目にしただけでも、彼女らのスキルレベルの高さは理解出来る。しかし、俺の要望に応えれるかどうかはまた別の話だ。俺の特殊な鎧を作成出来る腕前を持っていないのであれば、俺に再びNPCの鍛冶屋に足を運ぶようになるだろう。縁は大切にしなければならないが、自分のゲームプレイに支障が出てしまうのであれざ話は別だ。
「ならば問題無し! だったらお兄さんに私達の腕前を見せつければ良いのよネ!」
「フッフッフッ…………ようやく私達にもチャンス到来だネ、ハルちゃん」
俺の疑うような言葉に対して、二人はむしろやる気が出たのかニヤリと笑い勢いよく立ち上がった。
「だったら今から一緒に【アイテム素材】を集めにいきましょウ! 三人で手分けして集めて、メチャクチャ強い装備品を作ってあげるワ!」
「私達が口だけでは無い事を見せてあげるヨ」
「えっ? 今から一緒にか!?」
なんとも急な話である。確かに【アイテム素材】は足りてないし、集めに行くのは構わないのだが、まさか一緒に収集作業をやると言い出すとは思わなかった。俺達はまだ出会って数分の仲だというのに、だ。
こうしたオンラインゲームにおいて出会ったばかりのプレイヤーと即席のパーティーを組むのはおかしい話では無い。しかし、それは協力者が必須のクエストやバトルを行う為にパーティーを組むのであって、そこら辺に転がるアイテムを回収する為に見ず知らずのプレイヤーと組む事はほとんど無いのだ。
例えば時間が無いのであれば有り得ない話では無いが、今回は急ぎの用でも無いし、時間制限が設けられている訳でも無い。わざわざ彼女達が露店を畳んでまで俺に付いて来る理由は無いのである。
「オイオイ……やる気があんのは結構だがな、ちょっと強引なんじゃないか? 俺はまだアンタ達を信用しているわけじゃないし、アンタ達の事をほとんど知らないんだぜ?」
「何ヨ。だからこそ、こうして鍛冶の腕前を見せる為に一緒に素材集めに行きましょウって言ってるんじゃなイ」
「そーじゃなくて! 鍛冶の腕前云々の前に、アンタら自身が信用に足る相手か分からないってんだよ! 俺は強引な押し売りやら詐欺染みた商売をしてくる奴は大嫌いなんだぜ!」
この二人はやたらと急かして俺に商品を買わせようとしてくる。そこの所がどうにも怪しい。何か良からぬ事でも企んでいて、俺を罠に嵌めようとしているかも知れない――――と思ってしまう程にだ。彼女らが人を故意に貶めようとしているプレイヤーかどうかは分からないが、もしそうなら俺は二人からの申し出を断って、さっさとこの場を後にしなければならなくなるだろう。
「ちょっ…………!? あ、アタシ達がそんなプレイヤーに見えるって言うの!? そんかの言い掛かりよ!」
「お、お姉ちゃん! 口調口調! 素が出ちゃってるよ!」
俺の指摘に顔を真っ赤にして怒り出すハル。それを袖を引いて抑えるマル。似たような顔立ちの二人ではあるが、片や直情的に感情を表すタイプで、片やそんな相方を諌めるタイプ。どうやら性格は正反対なようだ。
マルの説得(?)が効いたのかどうかは知らないが、ハルは多少は冷静さを取り戻したようで、はっとした様子で取り繕いながらも反論を口にした。
「んんっ! ……私達は善良な鍛冶屋に彩飾屋なのネ。詐欺なんて絶対にしませン。商人にとってはお客様からの信頼と信用こそが何より大切な事だからネ!」
「ちょっと強引だったのは謝りまス。でも私達にも色々と理由があって……なんとしてでも私達の商品を買ってくれるお客さんが欲しかったのヨ……」
「……いや、俺も悪かった。ちょいと言い過ぎたな。すまない」
未だに高圧的な態度のハルに対して、マルはきちんと頭を下げて謝ってきた。少し俺も言葉が過ぎたと思い、頭を下げる事にした。
俺は別に彼女達と喧嘩をしたい訳では無く、彼女達の行動に裏がありそうだから、それを知りたいだけなのだ。二人の尊厳に傷を付けてしまったのであれば謝るべきであろう。
「で、だ。なんでアンタらはそんなに商品を買わせようとしたり、俺を固定客にしようとしてくるんだ? 商人魂が逞しいのは良いけど、やり過ぎちまったら逆効果になるぞ?」
俺は肝心の部分について尋ねた。すると二人は困ったような表情をして互いの顔を見合わせて、腕を組んで考え込んでしまった。
「お兄さんに教えても信じてくれるかどうか分からないからネェ……」
「仮に信じてくれたとしても、ひょっとしたらお兄さんにも危険が及ぶかも知れないシ……」
「別にそういうのは良いから早く話せ。信じるかとか危険が及ぶとか、俺が話を聞いてからどうするか考えれば良いだろうが」
「……後悔しなイ?」
「……馬鹿馬鹿しい話だヨ?」
「ここまで勿体ぶられて聞かずに帰れるかってんだ! 俺が夜、気になっちまって六時間半しか眠れなくなったらどうするんだよ!」
「何その微妙な睡眠時間!? 長いのか短いのか突っ込み辛いわよ!」
「お姉ちゃん、口調が素に戻ってるって!」
再びマルに諌められてしまうハル。片言の鍛冶屋と彩飾屋というロールプレイに興じているようだが、割りとあっさりボロを出してしまっている。いまいち役に成り切れていない所はミケネコを彷彿とさせる。
ハルはまたしてもはっとして、咳払いつつ話を戻した。
「おほん! そこまで言うのならよろしい。私達が何故必死になって商品を売ろうとしているのかを教えましょウ」
「まぁ、難しい話では無いんだけどネ。職人らしく、色んな人に私達が作った装備品を使って貰いたい……って思っていてネ」
「いや、だからな? 心構えは立派なのは良いけど、ちょいと気が急いてるんじゃないかって俺は言ってるんだが……」
わざわざ客と一緒に素材集めに行こうと言い出したり、何度も贔屓にしてくれるのかと確認したりと、彼女達はどうにも焦っているようにも見える。鍛冶屋や彩飾屋でしかない彼女達が、そんなにも商売に力を入れる必要があるのだろうか?
確かに武器や防具をタダで他のプレイヤーへプレゼントする事は難しいだろう。作成に掛かった費用の分を補填しなければ、鍛冶屋や彩飾屋なんてやっていられない。より良い装備品を作る為の資金を回収するべく、こうして値段を付けて販売するのは正しい事だろう。
だが、それにしたって強引なやり方をする必要は無いだろう。前のめりで販売しなくても、彼女達の武器は性能も高いし、重量も十分に軽いのだ。多少値段が張ったとしても、大抵のプレイヤーならば買いを求めると思うのだが。
俺が首を傾げていると、ハルが膨れっ面になりながら不満そうに答えを教えてくれた。
「……だって売れないんだもン。私達の商品」
「あっ? 売れないって……?」
「誰も買ってくれないノ! 私達の商品を!」
ハルが悲鳴の如き声を上げながら、彼女達が作った商品を指差した。
「この子達は不良品だから、性能が高くても直ぐに壊れるって……そんな変な噂が流れているのヨ!」
「もちろん、私達の作った装備品が不良品な訳が無いヨ? でも、私達が言っても誰も信じてくれなくてネ……」
「……噂……不良品、ね」
俺は再び商品に目を向けた。外見上は新品の装備品にしか見えず、むしろNPCが作成した物よりも頑強そうにも思える。ひょとしたら本当に不良品なのかも知れないが、少なくとも俺では見ただけでは判別出来ない。購入して実際に使わなければ、不良品がどうかを見極める事は出来ないだろう。
彼女達の言が正しいのであれば、この商品類は誰も買ってないそうだ。つまり、誰も彼女達の商品を使った事が無いという訳である。なのにそのような変な噂が立ち、そして大半のプレイヤーがそれを信じているという事は――――。
(誰かが彼女達を貶める為に証拠を捏造して噂を広めているか、彼女達が嘘を言っているかのどちらかだな)
さて、どちらが正しいのだろうか。彼女達の必死さには偽りが無いように見えるし、阿漕な商売をするようなプレイヤーには見えない。噂なんて大体が眉唾物であるし、彼女達を信用しても良いのだろうか?
というか、そもそもの話――――。
「装備品が直ぐに壊れるって言ってたけどよ。プレイヤーメイドの装備ってそんなに壊れ易いものなのか? 俺がNPCから購入した物は一度も壊れた事が無いが……」
《神世界アマデウス》に武器や防具の耐久度があるのは前々から知っていたが、俺は別に気にしていなかった。〈アーミーアント・ローランク〉をひたすらに倒してレベル上げしていた時ですら、武器が破損した事は一度も無かったのだ。多少乱暴に使ったくらいでは武器や防具は壊れないと思っていたのだが、違うのだろうか。
「それは――――物にもよるヨ。クリスタルみたいな壊れ易い素材のみで作った物は壊れ易いし、鉄鉱石みたいな壊れ難い素材のみで作った物は壊れ難い。NPCの店で売られているのは、大体が鉄鉱石が入っているから壊れ難いヨ」
「杜撰に作れば、当然壊れ易くなる。だから物を作る時は様々な素材を組み合わせて作るんダ。クリスタルだけでは壊れ易いのなら、他の素材で補強したりしてネ」
「私達の作った装備品だってそうだヨ。鉄鉱石を軸に頑強なモンスターの素材で固めて、けれどなるべく軽くなるように木材で代用出来る所は代用したりしてネ! 手間を掛けて作っているからこそ、強いのに扱い易い性能の武器になっているんだかラ!」
つまり、ちゃんと作っているから不良品であるはずが無いという事か。確かに彼女達の言う通り武器の性能は良いのだ。カタログスペックが良いのは明白なのに、彼女達の作った装備品を使う事無く否定している輩がいるのは真実なようである。
「だから! どこかの誰かが私達の作った装備品で大活躍してくれたら、そんな根も葉も無い噂なんて吹き飛ぶと思うノ!」
「どこかの誰かが一つでも武器を買ってくれれば、その有能性を実証出来るんだけどナー」
「……で、俺に商品を買って欲しい訳か」
自分達が作った装備品に謂われ無き噂が立っていたとしても、実際にその装備品を付けたプレイヤーが活躍すれば、噂は雲散霧消して万事解決となる。
彼女達はそう思っていたからこそ、なんとしてでも俺に商品を売り付けたかったのだろう。俺がその噂を知らない様子だったから――――俺ならば商品を買ってくれる可能性があると踏んだから、ここぞとばかりに売り込んで来たのだろう。
なるほど。彼女達が焦っていた理由は分かった。しかし――――。
「あんな押し込み気味に売り込みされちゃあ、大抵の奴が怪しんで遠ざかっちまうぞ? 嫌な噂を払拭したい気持ちは分かるけど、だからと言って強引な手段を取っていい理由にはならねぇだろ?」
「うぐ……まぁ、それはそうだけどサ……」
「すみませんでしタ…………」
シュン、と項垂れてしまうハルとマル。別に彼女達が悪い事をしていた訳でも無いが、それにしても結果を急ぎ過ぎた姿勢で商売をしていたのは確かだ。余計に悪い噂が立たない為にも、彼女達にはしっかりと諭しておく必要があるだろう。
「説教するつもりはねぇが、自分達の潔白を証明したいのなら自分達の行動を正しくしなきゃあな。多少の粗が後々の大事に繋がる事もあるんだからよ」
「…………分かりましタ。反省しまス」
「…………以後気を付けまス」
強引な手段は簡単に行えるが、必ず遺恨を残す。
俺が中学時代に学んだ教訓だ。傍若無人な態度を取っていたりイジメやカツアゲをしていた奴を(ムカつくから)力ずくで黙らせた事があるが、その後は報復に次ぐ報復だった。仲間を呼んで大勢で襲い掛かって来たり、俺に殴られた恨みからあの手この手で復讐を果たそうとしてきたりと、長期に渡って泥沼と化した戦いに挑む結果となってしまったのだ。
強引に物事を為してしまえば、問題を力ずくで解決してしまったら、楽した分だけのツケが必ず回って来るのだ。彼女達にはあのようなドロドロした日常は送ってほしくないのである。
俺が偉そうにあれこれ指図する立場では無いのは分かっている。他ならぬ俺自身が物事を力ずくで解決するようなプレイヤーなのに、彼女達に上から目線でとやかく言うのは間違っているだろう。
でも言わずにはいられなかった。既に言ってしまったのだ。投げられてしまった賽は元に戻る事は無い。
ならば、俺がこの後に取るべき行動は一つしかない。
「偉そうにあーだこーだ言っちっまって悪かったな。じゃあ、素材集めに行って装備を作って貰うとするかね」
「「…………えっ?」」
俺の言葉に二人は呆けた表情をして、間の抜けた声を同時に上げた。そして、徐々に俺の発言の意味を理解して来たのか、ギュンッッ! 顔を近付けて来た。
「かかかか…………買ってくれるノ!? 私達の作成した装備品を!? わざわざ【アイテム素材】を集めに行ってまで!?」
「てっきり、もう買ってくれないかと思ってたのに――――どうしテ?」
「だって自分達が不利になるのに、俺に噂の事を教えてくれたろ? その時点でアンタらが悪い奴じゃないっていうのは分かったしなぁ」
もし俺に商品を売り付けたいだけなら、適当に話をはぐらかして知らず知らずの内に買わせておけば良いのだ。それなのに、わざわざ自分達に纏わり付く悪い噂の事を律儀に話してくれた上で、俺の言葉に真摯に耳を傾けてくれたのだ。彼女達が真面目で優しいプレイヤーであるという事は、この時点で確信していたのだ。
「悪いプレイヤーじゃねぇのなら結構! 偉そうな態度を取ってしまった侘びも含めて、アンタ達が困っているなら助けたいと思ったんだよ。アンタ達が作った装備品はどれも本当に性能が良いから、俺の装備も新しいのを作って欲しいという下心もあるがな」
悪意が無い。それだけで十分。
別に彼女達を嫌っている訳では無いのだ。ならば彼女達に装備品を作って貰うのを拒否する理由は無い。むしろ、より良い装備品が手に入るのであれば、喜んで彼女達に手を貸そう。
「それに――――ぶっちゃけ今日は何の予定も無くて暇なんだ。せっかくアンタ達が誘ってくれたんだし、一緒にパーティー組んで冒険した方が楽しそうだ。だから、素材集めに行こうって言ったんだよ」
「ほぇ~~……なんというか……随分とさっぱりとした性格をしてるネ。私達に説教をかましたと思ったら、次の瞬間には一緒にパーティー組もうって……」
「最初に誘ったのはアンタ達だろうが。ちゃんと理由も聞けた以上は断る必要もねぇ。複数人で素材集めに行った方が効率が良いのは当然だしな」
彼女達は悪い噂を払拭出来る。俺は強力な装備品が手に入る。互いの目的を達成する為にも、ここは一緒に【アイテム素材】を集めに行くのが正しいだろう。
「んで、どうすんだ? やっぱり縁が無かったからと、行くのを止めるか?」
俺がそう問うと、ハルとマルは互いに顔を見合わせて――――同時にニッコリと微笑んだ。
「いえいえいえいえ! せっかくのチャンス到来を不意にしたら、末代までの笑い者となりまス! ここはご一緒に協力し合って、すっごい強力な装備を作る為に奔走するとしましょウ!」
「手を貸してくれて有難う、フルアーマーのお兄さん。私達は喜んで貴方の為に装備品を作るとしましょウ」
「――――なら、改めて自己紹介をしなきゃあな。俺は《騎士型》のナギだ」
俺が名前を告げると、彼女達も俺に習って胸を張りながら互いの名前を改めて主張した。
「私はハル! 【クラススタイル】は《戦士型》! だけど本業は鍛冶屋ヨ!」
「私はマル。【クラススタイル】は《盗賊型》。手先の器用さには自信があるヨ」
「「どうかこれから、よろしくお願いしまス!」」
――――こうして俺は新たに一つの事件にへと巻き込まれていく。
《神世界アマデウス》内では大した事の無い、小規模なちょっとした事件。
けれど、俺や彼女達にとっては《神世界アマデウス》での今後について大きく関わっていく程の事件となる。
それがどのような内容であり、どのような結末を迎えるのかは、今の俺達が知るよしも無かった――――。
相変わらず年末年始は忙しいです。次の投稿も遅れるかも知れませんが、何卒よろしくお願いします。




