新入社員が入ってくる
広くて白い清潔感の溢れるオフィスに私たちは集められていた。そこへ新しく入社した社員たちが次々と入ってくる。書類を見ると、私のところにも二人配属されていた。そこには氏名と生年月日だけが書かれていた。私はふたりの名前を順番に呼んだ。
一人目は平凡な名前で、私より十ほど歳下で、呼ぶとすぐに私のところにやってきた。
二人目は読むのが難しかったので、こうかなと思う読み方をして呼んでみた。すると、当人が私のほうを向いて正しい名前を言った。私が推測したのとは似ていたけれど少し違うものだった。
生年月日を見ると、歳は私より少し上だったが、見た目は若そうだった。
「へえ、この年齢には見えないね」
無表情で何も答えてくれなかった。
「まあ、とにかく、これからこの三人でチームを作って頑張ろう」
「チームには入りません」
難読姓の新入社員が言った。
「どうして」
「勝手にやりますから」
「勝手にって何を」
ニヤリと笑った。
「営業活動をってこと?」
少しうなづいた。
私は少し考えてからこう言った。
「まあいいや。営業は勝手にやってもいい。でも報告だけはしてくれよ」
「報告はしません」
「え、それはダメだ。一応チームなんだし、会社なんだし、ええっと報連相と言ってね」
「分かりました。それなら辞めます」
「ちょっと待って。営業は勝手にやってもいい。でも結果は教えてくれないと。だって、どこの会社に何をどれだけ売れましたって言ってくれるだけでいいんだし」
「しません」
「仕方ないな。ちょっとついてきて」
私が立ち上がると、意外と素直についてきてくれた。
「課長。この○○くんですが、勝手に営業をしたいと言っています。それはまあいいんですが、報告もしないというんで、ダメだと言ったら、じゃあ辞めますということなんで、辞めるそうです」
課長も少し驚いたようだった。
「え、それは何。勝手にやられちゃ困るよ。報連相と言ってね」
課長がありきたりのことをしゃべるのを尻目に、新入社員は大きな箱を持ち出した。そこから取り出したのは大砲のような大きな銃で、それを天井に向けてぶっぱなした。轟音がして、二階との境目から、構造体のかたまりが、ドーン、ドーンと落ちてきた。さらに壁が破られ、廊下に数台の小さめの車両が入ってきて、窓の向こうに止まった。それらは窓から見ると机などの家具が積み上げているようにしか見えなかった。おそらくそれを隠れ蓑にして、情報収集をするのだろうとわかった。
社員たちは驚愕して、あわてて部屋から出ていった。そのあとを銃をしまった新入社員もついていった。私だけ遅れて部屋を出ると、みんなは隣の小部屋に集まっていた。見るとホワイトボードに、○○くんを「解雇する」「解雇しない」と分かれて大きな丸が書いてあり、その中にそれぞれが自分の名前を書いて投票しているのだった。「解雇する」が圧倒的に多かった。
同僚が私の名前を呼んで話しかけてきた。
「あとはお前だけだぞ」
私は言われるままに一度マーカーを手にとったけれど、何も書かないままそれを置いた。
後ろの方の席に当人が座っていたので私は歩み寄って話しかけた。
「おいこれはどういうことだ」
「クビにするならしたらいい」
「何を馬鹿なことを言っている。お前はクビにしろとは言っていなかった。辞めると言っていたんだ。私は投票しない。辞めるかどうかは自分で決めろ。あのやり方でやればいい。ただ結果だけは教えてくれないと私たちが困るんだ」
意外そうに微笑んだ。そしてこういった。
「でも今までそんなことをしたことがないので、どうすればいいかわからない」
「それは教えるから」
絶句した。やがて泣きそうな声で言った。
「そんなことを言われたの初めてだ・・・」
感動の名場面のあとは、みんな仲良くなって楽しく研修会が始まった。私はそれを見て、なんだか違うなと思っていた。